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第7章・常識とは何か

 ――太一は少女に連れられ、その門をくぐった。中にいた男たちが出迎える。


「あたしの仲間たち。変なやつばっかだけど、話してみると割とおもしろいわよ」


 少女がそう言うと、笑い声が響いた。


「ツグミー、変な奴、はねぇだろうがよー」


「俺たちが変なら、ツグミもそうだろ? 類は友を呼ぶからな」


「あたしはアンタたちとは違うの」


 口は悪いが、男たちの眼に悪意はない。小さな子ども達がじゃれあうようなやり取り。


「紹介するわよ、この間話した子。タイチ君」


「タイチ……うん、いい名前じゃねえか。よろしくな!」


 よろしくお願いします。そんな言葉が自然に自分の口から出たことに、太一は驚いた――




「よろしくお願いします。有田 衛(ありた まもる)。大学4年です」 


 日曜日、朝浦家の2階。夜季の紹介で連れてこられた男は、そう”じぃ”にあいさつした。


「おう、よろしゅう。話に聞いとったよりはマトモだな」


 言いながら”じぃ”は煙管を取り出そうとして、思いとどまった。


「あ、オレ別にタバコとか平気ですよ。自分でも吸いますし」


 どうぞ、と手で促しながら有田は胸ポケットからタバコの箱をちらつかせる。


「んにゃんにゃ、別にお前さんのことなんかちぃーっとも気遣っとらんわい。肺がやられようが煙たかろうがな」


「は……」


 本人を目の前にしてどうどうと言えるものだ。有田もポカンとした表情になっている。


(このジジィ……無礼って言葉の塊みてぇなやつだな……)


 夜季も呆れた目つきだ。


「ただ、ワシの可愛い、そりゃあもう可愛い孫に止められとるからなぁ。ガマンせにゃならんのだ」


 ”じぃ”が煙管を懐にしまうと、当の「可愛い孫」が部屋に入ってきた。


「ただいまっ! ……あれ、お客さん?」


「どこ行ってたんだよ、スーコ。この人がオレの知り合いのマモルさんだ」


「有田 衛。よろしく」


 有田があいさつをするが、雛子は返さずにじっと有田の顔を見ている。


「この人が元・いじめられっこ役……」


「ダメか?」


 夜季が聞くと、少し間をおいて答えた。


「OK、OK! うん、いじめられっこ、出来そう」


「それは褒めとるんか? けなしとるんか?」


 ……お前が言うな、と夜季は思っただろう。


「そんじゃ、よろしくね! マー君!」


「お〜い……スーコ。その人俺たちより4つ年上なんだが……」


 夜季はそう言おうとしたが、有田に止められた。


「いや、別にかまわねーよ。マー君っていいじゃん。なかなかセンスあって」


「でしょ? よろしくね〜マー君」


「よろしく、えーと……スー、コ」


 笑い合う二人を見て、夜季はやれやれと肩をすくめる。と、ここで”じぃ”の目が光った。


「な〜んか、気にくわんようだな、ヨキ」


「あ?」


「スーコが衛と仲良うしちょっとが気に障るか?」


 いつもの口八丁が始まった。


「それよりもよ、スーコ。なんでリン兄妹とユーシが来てねーんだ?」


 ”じぃ”に絡まれたら、相手せずに話を変える。これが夜季の学んだ対処法である。


「あの3人は、夜季達が来るよりずーっと早く来てたよ。で、ちょっと学校までお使いに行ってもらってるの」


「お使い?」


「うん。文化祭で映画やること、まだ先生たちの許可もらってなかったからさ。説明して許可もらって来てってお願いしたの」


 サラリととんでもないことを言う。


「ちょっと待てや、スーコ。お前、今まで許可なしでやってたのか?」


「うん」


「許可が出なかったらどうするつもりなんだ?」


 この質問に、雛子は笑って答えた。


「大丈夫だって! 超・優等生のリン姉妹と天才ユーシだもん。先生も甘く見てくれるでしょ」


「いや、そういう問題じゃなくてだな……こういうのって、最初にお前が許可もらってから仲間を集めるのが普通だろうが」


「へ? どういうこと?」


「だからなー! つまり……」


 マジメに議論しようとする夜季だが、ここでまたも邪魔が入った。


「普通にやっとったらおもしろくなかろう。ダメならダメで仕方ない。許可をもらえりゃ幸運、っちゅうことで最後まで突っ走れる。一種の願懸けだ」


「んー……よくわかんないけど、そーゆーこと!」


 結局、なにもわかっていない雛子であった。


(ま……どうせ学校の教師共もバカじゃねえし、こんなフザけた企画通るわけがねえ。許可がなけりゃあオレもすぐにやめられるしな)


 夜季の願望混じりの考えは、10分後に戻ってきた3人の報告によって砕かれた。


「映画、許可おりたよ。木崎先生がすぐに引き受けてくれたんだ。体育館貸切で使っていいってさ」


「おおー! さっすがミオリン姉妹アンドユーシ!」


「み、ミオリン?」


「だから、姉妹じゃないって……」


 西条兄妹が雛子にツッコミを入れる中、夜季は心の中で叫んでいた。


(うちの学校はマトモなヤツいねーのかよ!!)


 と。その心を読んだかのように笑う者が約一名。


「秀才の人気っぷりはスゴイのぅ。……ヨキ、お前さんがいっとったら門前払いだったかもしれんのにな。ザ・ン・ネ・ン」


 夜季は文字通り頭を抱え込んだ。一方、凛たちは新メンバーとの交流を繰り広げている。


「あー、どうも初めまして。ヨキとは近所の有田です」


「初めまして。西条凛です。……念のためにことわっておきますが、男です」


「えーっ!? ウソ、マジ!?」


 そこに雛子が割って入る。


「アハハ。マー君も間違えた」


 全員が和気あいあいとしていた。夜季を除いて。

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