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第18章・想いを胸に秘め

 暮越が仲間を集めて文化祭を妨害しようとしている。なぜ? 具体的にどのような方法で? 詳しいことはなにもわからない。


 ともかく明日、手の空いている者で警備をしようと言うことで結論を出し、夜季達はそれぞれの家路についた。


 ただ、一人。前述の謎を解いた人物がいた。言うまでもなく夕紫である。しかし、解いたといっても未だ推測の域を出ず、誰にもそれを告げなかった。


『……き……許さねぇ……』


 暮越は小学生の時、よくそうつぶやいていた。風邪を引いて長い間休んでいた後のことだ。その言葉が何を意味するのか、誰も知っている者はいなかったしハッキリとは覚えていなかった。


 夕紫だけが、その言葉を鮮明に覚えていた。特に意識して聞いていたわけではないが、夕紫の卓越した記憶力はしっかりとその言葉を脳に刻み込んでいた。


「木崎、許さねぇ……か」


 そうつぶやいて、玄関のドアを開けた。



「壬織。明日の舞台、大丈夫?」


「ええ。……なにもなければ、ですが……」


 壬織の表情が沈む。


「僕とヨキとユーシそれとマモルさんに、他の手が空いている人たちにも協力してもらうからさ。壬織はステージに集中していていいよ」


 凛が妹に励ましの言葉を贈る。もっとも、凛自身も不安を拭いきれていないのだが。


「珍しく、ヨキがやる気になってくれてるんだ。唖倉先生のためにも、絶対に成功させないとね」


「唖倉先生……。そうですね、頑張ります」




「それじゃ、明日7時っすからね」


「はえーなぁー。ま、学校に置いとくよか安心か」


 明日の朝、夜季と有田で背景の絵を運ぶ約束をしている。なにしろサイズが大きいのだ。


「その暮越ってやつヨキの知り合いなんだろ? 話し合いでどうにかなんねーか?」


「話し合うどころか、アイツが今どこにいるのかもわからねぇ」


「あ〜あ〜、ったくよぉ」


 有田は大袈裟に肩をすくめる。


「ハタチ過ぎて不良とケンカすることになるとは思わなかったな〜」


「とにかく明日、遅刻厳禁で」


「へいへい……」


(暮越……お前、なにがしたいんだ? ただ気に入らないってだけで、こんな騒ぎになんのか? お前……なにが、目的なんだ)



 様々な想いを抱き、ついに文化祭当日を迎えた。


「じぃ、やっぱり寝てた方がいいよ。熱も出てきてる」


「ん……そうか?」


 朝浦家の2階。雛子が”じぃ”の看病をしている。


「残念だな……スーコの作った映画、見てみたかったが」


「ビデオに録画してもらうから、学校から帰ってきたら見せてあげる」


 雛子は時間を気にしてそわそわとし始める。


「ふぅむ。楽しみに待っとるわい。それじゃ、行ってこいや」


「うん、行ってきます! 絶対、ぜ〜〜ったい外出ちゃダメやかいね〜!」


 慌ただしく出て行く後ろ姿を見送り、”じぃ”は眠りについた。



 映画の上映は午後からだったが、昼前から体育館は、満席だった。


 一般の客も招いているため、用意していたイスでは足りずに立ち見まで出ている。


「うひゃ〜……スッゴイ人だね〜」


「2階まで一杯ですよ」


 控室から客席を除いた雛子と壬織が会話している。


「これも、ヒロイン役のミオちゃんの美貌のおかげかねぇ……」


「えっ、いやそんな……。原作者が唖倉先生だからですよ」


「お〜い、ちょっといいか?」


 ドアをノックしながら声を掛けてきたのは、有田だ。


「マー君? 入っていーよ」


 有田が入ってくる。その後ろに、大学生と思わしき集団がいる。


「あ、コイツらはオレの大学の後輩。勝手について来てるだけだから気にしないで」


「勝手にって……プロデューサーに会わせてやるからついて来いって言ったじゃないですか」


 一人の女子大生が口を尖らせる。


「ああ悪い、悪い、犬飼。こーゆーコネってよ、見せびらかしたくなるんだよな」


「初めまして。プロデューサーの朝浦スーコです」


 有田を無視してあいさつをする。


 ……スゲェ髪……。バカ、言うなよそんなこと。という声が集団の中から聞こえてくる。


「こちらが、ヒロインのミオちゃん」


「壬織です」


 おお〜美人。きれい〜。という反応。


(あり? な〜んかウチがあいさつした時と反応が違う……)


 雛子が内心カチンとしたのを見抜いてか、有田が口を開く。


「そうそう、本題本題。スーコちゃん、ユーシ見てない?」


「ユーシ? さぁ……朝ちょっと見かけたけど……。今はどこか知らない」


「私も、伊波先輩は見てないですね」


「うーん……。今から警備の打ち合わせの確認でもしようかなって思ってるんだけど、見当たらないんだよなぁ」


 有田は困ったように腕を組む。


「ユーシのことだからさ、確認しなくてもちゃんとわかってるんじゃない?」


「そうか、そうかもな。そんじゃ、俺も警備に行くから後はよろしくな。……オラ、お前らも警備手伝え」


 え〜!? 聞いてないですよ〜。と、ブーイングが起こる。


「うるせぇな。ちゃんと映画が見れる位置での警備割り当ててやるからよ」


 ざわつきの余韻を残し、大学生の集団は出て行った。


「ゆう、し……?」


「ん? どうかしたか、犬飼」


「いえ、別に」



 一方そのころ、すでに警備についていた夜季と凛も夕紫の不在に気がついていた。しかし。


「ユーシのことだから、問題ないと思うよ」


「心配いらねぇな。それより、オレ絵を描くのが忙しかったから、まだ一度も映画観てないんだよなぁ……」


「残念だけど、安心して見れる状況じゃなさそうだね」


 いつもはにこやかな凛も今日は表情が険しい。


「せめてお客さんたちが安心できるように、僕たちがしっかり守らなくちゃね」


「そうだな」


 開演一時間前。陰謀との対決の時は、確実に迫って来ている……。

犬飼については、【騎行の風】を参照ください。


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