3-2とある少年
少年は、生まれたその時から、誰かの真似をして生きていた。
森にいた頃は毛に覆われた生き物たちの群れでその真似をして命を繋いでいた。群れについていけず置いていかれた後は老人の真似をした。賊に全てを奪われた時は、震える老人の、倒れた老人の真似をした。誰もいなくなったその場所からは、賊の真似をして去った。
そして今度は、怒りに身を震わせる男達の真似をした。
二人きりの生活は、少年が雷を鳴らした後、様変わりした。お前も雷なんだろうと男は言って、決して人前で使わないようにと言い聞かせた。
次の街では影の中で生活をした。時折同じように身を隠す男に会ったが、彼等を見るとすぐさま行方をくらます。その目が青く光っていたから、同類なのだろうというのが男の見解だった。
男は同類を探すようになった。特に誰かから虐げられている惨めな同類を。その度怒りに身を震わせる男を、彼等は慕う。それで男は少し心を慰められているようだった。
少年は彼等の中に埋もれていくような気持ちになりながら、群れに従う。
それが少年のたったひとつの生き方だった。
妙なことが起こったのは、仲間が片手を超える人数になってからだ。
増幅の能力の持ち主がいた。能力を使ってみて欲しいといわれ少年が従うと、しかし何も起きない。そのくせ目は青く光って、二人で首をかしげる。その時すれ違った黒服の男が、それを止めてくれと怒鳴る。
両耳を抑え苦悶の表情に顔を歪ませたその男は、一言言うと震えながら影の中へ逃げ帰っていった。
氷の能力の持ち主がいた。気紛れに水を凍らせ暑さを誤魔化す横に少年も並ぶ。
能力に反し熱い性格の男はにかりと笑った。少年もまた気紛れに能力を少し使ってみると、何故だか新たな氷が転がる。男の目は光っておらず、少年の目だけが青く光っていた。
そんな不思議なことは続いていく。一度は偶然かと思われた。二度目に疑惑が生まれ、三度目には確信となった。
少年は複数の能力の持ち主ではないかというのが仲間内での認識だった。
男は首をかしげる。手招きされた少年が歩み寄ると、男は目を閉じるように言った。
街の音が聞こえるかと、小声で問う。街の形は浮かんでこないかと。
そして少年はまた、男の真似をした。
少年は、複製の能力を持っていた。
男はどこか嬉しそうに、少年の頭を撫でた。
少年の中には何もなかった。
だからきっと、複製なんて能力が生まれた。それがなければきっと少年は生きてこれなかった。初めはただのモノマネで、もしかするとモノマネが行き過ぎて、超能力すら真似出来るようになったのかもしれない。
仲間内の一人がそれは扱いが危ないからとコントロール練習に付き合ってくれた。
初めは優しく、次第に強く。それを繰り返せば危ない事にはならなかったし、実際、多くの能力を支えることは彼等の生活に利があった。
同じ能力の持ち主にはなかなか会えないものだから、少年に愛着が湧くものも、少なくはなかった。
ーーだがその日常は、もうどこにもない。
怒りに震える男を見た。
傷つけられる同胞を拾うたびにその震えを膨らませていく男の背中を。決裂した瞬間を。
少年は、男を真似ることが、付き添うことが、自身が生きることだと確信していた。だから、どこまでもどこまでもついていった。
それだけだ。少年はただいきていただけだ。
他の種族を食うことも、共食いをすることも、珍しいことではない。何も思わない。ありふれた現象の一つ。少年はありふれた生き物たちの真似をしていた。
そのはずだった。
「俺はおかしい。俺は頭がおかしい」
吐き捨てる言葉の数々を、楓は無表情で聞き入れる。
「だから俺たちを殺したんでしょう?」
あの時、赤い髪の女が見えた。彼にとってリーダーたる男を殺した女。群れを殺した女。そしてその女は、最後に彼も殺した。
なのに現世では、恩人で、親友で、思い人だ。甘ったれた現世の少年は、真似好きの少年と融合しても生まれた情を殺せない。
「俺たちが間違っていたから」
香川康貴は人畜無害な少年だ。
慈悲深く心優しい模範生だと、高校一年の頃までは言われていた。同輩先輩に虐げられようと、周りから遠巻きにされようと耐え忍ぶような、少し内気な少年。
そんなのは、周りの誤解だったのだ。
「また、俺を殺す?」
「間違えていたから死んだんじゃないよ」
「でもみんな死んだ、殺された」
「生存競争は過酷だからねえ」
間延びした返答は、恐ろしいほどいつもと変わらない。
「ねえやっすー、一つ勝負をしよう。千歳と私がしたように」
「やっすーは特別」
「あたしの未来と、君の過去を賭けて勝負をしよう」




