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SCARLET  作者: 九条 隼
俺達天才サイキッカー!:超能力者達の話
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3-1とある男の話2



 罵声を背中に受けながら、少年の手を引いて街を出た。少年の腕は骨と皮だけで今にも折れそうで、寒さに細かく震えていた。

 男は上着を少年に与えたが、少年は怯えて首を振るだけだった。

 少年もまた、言葉も、与えられることも知らなかった。



 少年を連れて、男は新たな村についた。事あるごとにいい顔をしない連中だったが、お高くとまった連中よりはまだマシで、しばらく滞在し、そこで少年にものを教えた。街で得た知識を使って村に溶け込めるように生活した。ばからしい事だと思ったが、少年の安全を思えば仕方のない事だと思えた。

 相変わらず村人は遠巻きだが、あれを教えてほしいこれを教えてほしいと尋ねる連中もいた。

 女の元には帰らなかった。また女があんな連中に頭を下げているのかと思うと、吐き気がした。


 少年は言葉を教えようと言葉を尽くそうと、なかなか口をきかなかった。

 いつも怯えたように辺りを見回す。食事は男が食べたのを確認して、真夜中にこそこそと食べていた。その量はとても少年の身の丈に釣り合うようには思えなかった。男はひとつの大きな器に食べ物を入れ、そこから手掴みで食べるようになった。少年は、少しずつ、少しずつ、男を伺うようにしながら、男に習って食べるようになった。

 男が一つ言葉を言うと、少年がゆっくり、小声で繰り返す。そうして、食事だけでなく言葉も男に習うようになり、仕事も真似るようにもなった。


「いおりさん」

「伊織でいいよ」

「……いおりでいいよ?」

 男は苦笑した。

 少年は舌足らずながら男を呼ぶ。村人が男を呼ぶのを真似したらしかった。しかし女がつけた名を少年に呼ばれるのは、悪い気がしなかった。ただ少年がそうして男を呼ぶ度、あの女の柔らかい声が重なり合っているような気がして、落ち着かない。何度か少年に言い聞かせて、男は女の存在から逃げた。





 少年の体に肉がつくようになって、男と少年はまた新しい街へ移動した。

 不思議なもので、一人の移動よりも二人の移動の方が時間がかかっているはずだというのに、少年にまた新しい知識を与えて歩く旅はあっという間に過ぎて行く。

 人のいない村を漁り、賊から身を隠し森を抜け、そしてまた大きな街に着いた。

 石畳でできた堅苦しそうな街だったが、物に溢れていた。男は少年の手を引きながらも、好きなようにさせた。少年はどこか落ち着かない様子で何度も男に振り向いたが、目新しいものを目に入れては血色ばんだ頬をゆるませる。

 あれが欲しいこれが欲しいということは口にしないが見れば分かって、男はその度金銭を渡す。買っては二つに分けて口に入れ、「仲のいい親子だ」と揶揄されながら露店を抜けていった。


 その街は明るいが、その分、影も多かった。

 女といた街より一層大きなその街は人が多く、男がその街を把握するのは骨が折れた。しかし気のいい大柄な男が稀に男へ情報をこぼす。

「俺も”そう”だからな。助けあおうぜ」

 大柄な男は目を青く光らせる。ぽかんと口を開けて驚く男に、大柄な男もまた驚いたようだった。


「……あんた、もしかして分かってないのか?」

 それにしては隠すのがうまいがと訝しげな大柄な男は、対した男に感心したように頷いた。


「ま、いいや。ここにいる間は面倒見てやるよ」


 その大柄な男は、自らを、そして対する男を、「超能力者」と称した。



「そいつも恐らくそうだろうな」

 大柄な男は、後ろに隠れる少年を見てまた頷く。

「能力を使ったことは?」

 男も、少年も首を振った。

「アンタはあるだろう」

「まさか」

「アンタと初めて会った時、使ってたぞ」

 超能力を使っている時、超能力者の目は青くなるからと大柄な男はいう。

「あの時は……街の音を、聞こうとしてただけだ」

「街の、音? ……聴力増強とかそういう系なのか? 聞いたことはないが……まあ大量の武器を好きに操るような女もいるらしいし、何があってもおかしくはないだろうが」

「……そんな女いるか?」

「この街にはいねえよ、噂でいるって聞いただけ。実際に居たとしても、そんな派手なやつが生き残ってるとも思えないし」

 へえ、と返した男を、大柄な男はじっと見つめる。

「だが、あんたが超能力者だってのは間違いないだろうな、同じ匂いがするし……あんた、それをするとどうなるんだ? 何がわかる?」

 男は首をかしげる。

 幼い頃からそうやって危険から逃げてきた。影に隠れてそうすると、逃げ場がわかる。それが男がここまで生き残れた理由だった。

「……千里眼? いや、透視か? 現段階では、透視に似たような能力なのかもしれないな」

 大柄な男は一人、納得したように頷いた。

 男には簡単に、アンタ以外は壁の向こうの詳細な様子も逃げ道も、見なければわからない、とだけ話した。

「わからないのか? 建物の、構造だとか、井戸の場所とか、……わからずにどうやって過ごしてる?」

「わからないが、知る方法は他にもある。一度行けば覚えるし、人から聞くことも、紙から情報を得ることだってできるさ」

「それは……とても面倒だ」

「面倒なもんなんだよ」

 大柄な男は笑う。それから、少年と男を順に見て、声をひそめた。


「アンタ、そいつのこと守ってやれよ。まだ能力の使い方は分かってないんだろうけど、奴らにバレたら終わりだぞ」

 男は少年をちらとみて、その丸い目の輝きを覗き込み、頷いた。



「ところであんたの能力は何なんだ?」

「俺? 俺はこれ」

 男の指先からぱちりと閃光が走る。

 大柄な男は驚き身を固くさせた二人ににかりと笑って、連絡先を渡すとまた路地の中は消えていった。

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