3-閑話
「それで、終わりか? その後はないのか」
男は身を乗り出して女に聞いた。女はいつのまに用意したのか、紅茶を啜っている。
「ねえこのカップ小さくない? どう見てもあなたには似合わないよ」
「使ったことはない。それにどうでもいい」
男は急かす。
「そう思ってるだけかもよ。それにしても、まだ知りたいの? 知りすぎると痛い目にあうかも」
にこりと笑って、女はまた紅茶を啜った。
「体験談か?」
ただの親切だよと言いながら、女はカップを机に置いた。
「それより、理由が知りたいな」
それ次第だと言わんばかりの口振りに、男は押し黙った。何故だか騒ぎ立てる心臓は、もう止まったはずだというのに擬似的に動いている。人間ごっこか。ままごとのように紅茶を飲む彼女らのようだ。
終わった世界だというのに。自分たちも実体はないというのに。何故そうやって生きてるように振る舞うのが。
「……なんとなく、知らなきゃいけない気がする」
女はにこりと笑ったが、食い下がる。
「何があっても?」
「なんだ?」
あれやこれやと語り始めた割に、女は渋るそぶりをした。少し強めに、また女は言う。
「答えて」
男は迷わず答えた。
「ああ、知りたい」
「じゃあその勇気に敬意を払って、ここから先は、彼らも知らない話をしてあげる」
女はやはり笑ってみせた。
そう言って立ち上がって、手慣れた様子で戸棚からティーカップをひとつ出した。ソファに戻り、男へ向かいに座るように伝える。
机に並べられた缶をポットへ振る素振りをする。そして銀の薬缶を傾ける。何かが溜まる音がした。
何も言わず、静かに女は作業を行なった。男はそれを何も言わずに見つめる。
「はいどーぞ」
しばらくしてポットをティーカップに傾けた女は、それを男に差し出した。
白い陶器の小さなカップで、飴色の液体が揺れていた。
「……どうなってる」
「不思議でしょ、おまじないがかかってるからね」
あまりのバカらしさに何も言えずにいると、女はああ忘れてたとソーサーに乗せた。
「はい」
「……要らん、気味が悪い」
男が眉を寄せると、女は首をかしげる。
「おかしいな、紅茶は嫌いになった?」
「嫌いとかはわからない。だが飲む必要ないだろ」
女はきっぱり答えた。
「あるよ」
「なんの?」
「葬い代わり」
それだけ言って、女は薬缶をふる。
「それで最後だね」
「……なに?」
「なんでもないよ。それより、君の気になる話をしよう」
誰かのお呪いの薬缶のお湯。
それがなくなった時、あなたはようやく分かれ道に立つ。




