2-4不穏な少年
ーー楓と遠矢が怪我をして来た。
それ以来、遠矢はなんだかスッキリしている。無理して周りと合わせることが少し減った。付き合う相手が変わったような気もする。数学の先生と元々の知り合いだったらしく、よく話しているのも見かける。
とはいえ楓はあまり変わらない。ケラケラ笑ってふざけたり切り捨てたり。でも少しだけ、遠矢を見る目が変わったような気もする。
休みの間に何かがあったのは明白だった。誰にやられたのか。しつこく楓に聞いて、結局二人で喧嘩したと返された。本当に? 遠矢に確認すると、少しばつが悪そうに頷かれた。
ごめんと、身を裂くほど辛そうな謝罪だった。テレビでしか見たことがないくらい深く頭を下げた遠矢に慌てて否定する。
なんで俺に謝るんだろうか。
なんでそこに俺はいなかったんだろう。いたらきっと二人を守れたんじゃないか。
何で喧嘩したのか問い質しても、二人は下らないことだと言って詳しくは教えてくれなかった。
きっと。
きっと、二人は俺に何かを隠している。それは一体何だ?
あの二人はそんなに秘密主義じゃないはずだ。
遠矢は誰彼に告白されたとか水かけられたとか、聞かなくたって話していた。楓は自分からはあまり話さないけれど、聞けばさらっと答える。割とオープンな性格だと思う。
それ程に深刻な内容なのか?
でも、これ以上はしつこくしたらいけないんだろうか。
結局、アラームがなるまで一睡もできずにベッドから抜け出して、洗面所に向かう。まだ両親も姉も起きていないようで、冷たい廊下は静まり返っていた。
洗面所に入って、すぐ、鏡と向き合う。
鏡に写るいやに整った顔は、気味が悪いくらいきらきらしていて、バカらしくて笑えた。そうすれば鏡の向こうの美少年は泣きそうに笑って、何故だか吐き気がした。
最近、気になることがある。
二人が怪我をしてきてから、あの不思議な少女と出会ってから、ずっと、違和感がある。
健康そうな肌色をした手が小さく震えている。
最近の俺は、少し可笑しい。
俺、こんな目の色をしていたっけ?
俺、こんな顔をしていたっけ?
俺、こんな肌の色をしていたっけ?
俺、こんな性格だったっけ?
俺、こんなところで過ごしていたっけ?
おかしな疑問が、鏡を見るたび次から次へと湧いて出る。
ーー俺は、誰だ?
何かを忘れている気がするのだ。
忘れてはいけない人がいたような気がする。
思い出さなければいけないことがある気がする。
でも、それを思い出したら全てが崩れていくような、そんな気もする。それがとても恐ろしくて、言葉にしてはいけないような、そんな気持ちに襲われるのだ。
私のともだちを返してと泣いた、見ず知らずの少女が、頭から離れなかった。




