2-3選びたい人
--野球がしたかったなんて、我ながら馬鹿みたいな遺言だ。
最期だってのに同志への同情と赤色への感傷、遠い思い出への執着ばかりが頭の中を巡った。
結局俺も哀れんでいた奴らと同じだなと今更ながら思う。
昔、超能力者は皆子どものようだと誰かが言った。
それが班長だったか、それとも全く別の誰だったかはもう思い出せない。ただ、聞いた時は確かになと納得した。
超能力者は信じている。
非超能力者といつかは分かり合える日が来ると信じていた。
だからこそどれだけ追いやられようと、どれだけ恐れられようと害すことは無かったのだ。一度信じればどこまでも追い縋って、不安定な感情で超能力は変化する。そして暴走させて、また迫害を生む。
馬鹿みたいな話だ。
世間に溶け込めないフラストレーションが、超能力を生むのではないか。誰かに言うでもないが、自分ではそう思っている。だが、外れものばかりが超能力を持っているのか。それとも超能力を持っているから外れているのか。鶏と卵の話のように、どちらが先かは不明だ。
今になって思えば、成る程自分もかと納得もする。
だから現世ではひた隠した。
運がいいことに、早い段階で前世を思い出した俺は、非能力者に紛れる術を身につけた。思ってもないことを言うのも、本心と裏腹なことをするのも昔とそう変わらない。
遅くまで野球をして恵まれた非能力者のこどもとつるんで笑うその裏で、案外うまくいくものだと思った。
中学に上がってもそれは変わらない。
能天気な顔をして非能力者とつるんでいたのだ。
--それを見るまでは。
黒髪に青い目。情けない顔のノロマな同級生。廊下ですれ違ったそいつを見て、それと連む二人の学生を見て。
超能力者だと見ればすぐにわかった。そいつはコントロールがド下手で目の色をその時々で変える。クラスメイトになったやつからの話では、あいつは変だと噂になっているようだった。既に目をつけられていた。
なるほど、邪魔だ。
超能力者は表に出てはいけない。
隠れる術を持たないやつは消すのがいいだ。
非能力者に甘えて縋るようなやつなら尚更だと、誰もいない部屋で呟いた。
だが、馬鹿正直に手を出すわけにはいかなかった。
前世、集団に属した時にした誓いを破らないのだ。
この世界を害さないという誓い。そういう超能力があると分かっていながら頷いたのは失策だった。
だから、大義名分が必要だった。
例えば、そう。
--非超能力者の友人が蔑ろにされたことが許せない。そんなやつは不穏分子だとか。
くだらない案だが無くはない。そして頭に浮かんだのが、ド派手な赤い髪だった。使えそうな、頭の軽そうな女。
二年に上がりクラスにその頭を見つけた時、現世は運がついていると思わず笑ってしまった。
いい色だな、と声をかける。名前の通りなんだなと、親しげに。
そいつはありがとうとにっこり笑う。ファーストコンタクトは案外普通だった。
派手な見た目と威圧的な視線のわりに、話し始めると案外話はしやすい。ふざけあいも、ノリがいいのかテンポよく続くし、これは簡単に上手くいくかもなと思った。
思ったのだ、その時は。
赤桐楓。派手な見た目の女子学生。アイツの幼馴染。アイツの大切な非超能力者。だから奪ってやろうと思った。利用してやろうと思った。
思ったのに。
ーーその本人にズタボロにされるとか、ダサすぎだ。
救世主よろしくあちらの砦となったその赤髪は、それでも目を引くからいけない。
水使いに指示してあちらを退かせた赤桐は、変わらず立ったまま俺を見下ろしている。勝手な奴だ。まだ終わりじゃないのに勝手に後日再集合なんて間抜けなこと言いやがって。
「遠矢少年、遠矢!! 大丈夫か!? 救急車を……」
お面がズレるのも気にせず騒ぎ立てる先生を止めて、なんとか体を起こして地面に座り込み、赤桐を見る。
くそ、ムカつく程無傷だ。その辺の棒切れを振り回すと危ないということが、今回身に染みてわかったわ! 雷対棒切れで負けって、かっこ悪すぎだ。
言いたいことは山ほどある。でもなんていえば良い? 謝ればいいのか? 何を謝るんだ。怒ればいいのか? 能力隠しやがって、騙しやがってって、そんなのブーメランだ。
あれこれ考えるうちに、先生がこそこそと声をひそめる。
「遠矢少年! 仲直り、仲直り」
うるせーこいつ。赤桐が出て来たあたりから密かにテンション上げてたの知ってるんだからな。お前なんの味方なんだよ。
「お前、俺これ忘れねーからな」
言った瞬間、先生が背中を叩いた。傷に響いて思わず唸る。馬鹿はお前だ!
「えっ泣いてるの? 大丈夫? 痛いの痛いの飛んでけしてあげようか」
「いらねーよ! 泣いてねーよ!」
痛みで涙目のまま睨み付けると、赤桐はケラケラ笑う。
「お前、アイツいいのかよ」
「アイツ?」
「木山葵」
ああ、と言わんばかりに赤桐が頷く。
「喧嘩したわけじゃないし。……千歳と違って」
にこりと、いつもと少し違う笑みを浮かべる。それが少し癪だ。
「どういう意味だよ」
「一緒に、やっすーに怒られようねってことだよ」
言ったのと同時に、持ったままだった棒を投げ捨てる。
「殴りかえしていいよ、千歳。喧嘩とか仲直りって、やっぱこういうもんじゃない? 男だ女だなんて、今更だ」
べつに、それで手をあげられなかったわけじゃないと思いながらも、何となくその暴力的な思考回路が赤桐らしくて、俺にはその言葉が歩み寄りの言葉にも聞こえたのだ。
「バカなの!!??」
案の定、やっすーは激怒した。休み明け、いつも通り二人で教室に入った途端のクラスの空気は最高に笑えた。その空気を大声でぶち壊したやっすーは、いつもの少し遠慮したような態度も一緒にぶち壊して掴みかかって来た。
「人生、たまには殴り合いの喧嘩も必要なんだよやっすー」
頬に先生から貰った湿布を貼った赤桐が笑う。
「楓まで……! 顔に! ケガ!!!」
「なあ俺は? 俺も顔に怪我してるんですけど! なんなら俺のが重症なんですけどぉ!」
「遠矢にも言ってるんだよ!!! 何したの二人して!!!」
「えーそんなに心配してくれんの? うれちぃ〜」
「馬鹿なの!!? 親友なんだから当たり前じゃん!!!」
うーむ、エクスクラメーションマークのオンパレードって感じだ。でもなんだか、ひどく安心して、あまりに気恥ずかしくて、少し声が震えた。
「ねえ、楓」
「はあい?」
「……二人とも、誰にやられたの」
「ひ、み、つ」
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