2-2正直になりたい人
今でもたまに夢に見る。
遠い昔。現世じゃテレビ越しや本の中で見るような、現実味のないはずの、昔のことを。
凍えるような寒さの中で、バチンと切り裂くような雷の音を覚えている。
薄暗い雲の下、その日も空気は淀んでいたし物資は足りない。メンバーも欠けている。それでも攻撃が来るとわかっていて、備えないわけにはいかなかった。
奴らが攻めてくる。
しかし勝算は一切なかった。
うちの班はすでにリーダーを失いメンバーはサブと俺の二人だけ。後ろに庇う非能力者たちは身を寄せ合い、俺たちへも怯えた姿勢を崩さない。
異常者を見るような、親の仇を見るような。
ああわかっていたさ、別に期待をしていたわけじゃないとも。
死んだメンバーが彼等に踏まれたのも見えたとも。何のためにここにいるのか。何のためにあの時誓ったのか。
それを崩すような現実に、いつもの結末にうんざりだった。どっちが化け物なんだ。どっちがイかれてるんだ。
やる瀬無いこの戦いの行方がどちらに倒れようとも、もうどうでもよかった。
だって、ああ、もう終わる。
吠えるような形相のあいつらの苦しみを俺は否定できない。その時点でもう俺には向かい合う力はない。恐れられた、理不尽に打ち負かされた、屈辱を与えられ続けた。
それでも刃は抑えろと、その一線を超えてはいけないと、誰が彼らにそんなことを諭せると言うのか。
ああそうだろう、わかるとも。
きっと俺もおまえたちと一緒だったから。
目の前に迫った刃が弾けるのと同時に、目の前が真っ白く光った。
--彼は簡潔に名乗った。
今では詳細を思い出せないが、雷の超能力者だという。あの轟くような雷鳴があいつらを焼いたのかと思うと、何だかそれは救いの光のようにも感じた。
ここにいた非能力者は残念ながら死んだが、それでもあなただけでも生きていてくれて嬉しいと、彼の隣で彼女は震える手で俺の手当てをしてくれた。
彼女を見た事があった。
この集団の創設は彼女だと耳にしたことがある。
俺にできないことを口にする人だと思った。連れられた集会で、彼女はまるで聖女のように凛々しかった。とはいえ俺を誘ったそいつも、もういない。彼女もどうやら満身創痍のようで。
「一週間後、決着をつけます」
こんな状態で決着か。馬鹿げたようなことを言いながらも、真面目な顔で彼女は続ける。
「あり得ないと思いますよね。ですが、もう道はありません。ここにいた人達で、非能力者は最後なのです。応援が遅くなって、本当に申し訳ありませんでした」
大真面目に、狂ったようなことを彼女は話す。それでも話はまだまだ続きそうだ。噛み締めた歯が痛む。彼女を見ていると、押し殺したはずの感情が湧き上がってくる。
「お前は休んでろ、あとは俺が説明する」
「……そう、ですね。すみませんがお願いします」
彼女を押しのけた彼は何も言わずに彼女を見送ると、俺の前に座って声をひそめる。
「あそこで死ぬ気だったな」
「……そりゃあな、この有様だ」
「なら、この一週間で死んでおくのが一番だ。これは嫌味じゃなくアドバイス。一週間後の決着はマジだぞ。残りのメンバーを集めてぶつかり合う。アイツらを殺ろうってやつも、アイツらとやり合えないやつも、きっとみんな死ぬだろう。ここにきて同胞殺しなんてできないってやつもいる。そう思うのも仕方ないさ。好きにしろ」
真面目な顔の彼もまた、イかれたことを言った。
「班長はこの世界を守りたがっているが、もうこの世界はほぼ終わったようなもんだ。たとえ今生き延びたとしてあと何日生きられる?食いもんはほとんどない、水も枯れそうだ、もうこの世界は終わりだ」
まくし立てるような彼の話を聞いて、そうか終わりかと考える。
俺の故郷も酷い有様だと聞いた。俺を捨てたあの人たちは、あそこできっと死に絶えたのだろう。
「……痛いのは嫌いだな」
「そりゃ俺もだ」
「あんたの雷は、長く苦しまなそうだ」
「まあ、やり合うよりかはあっという間かもな」
苦笑した彼にそんなことを頼む俺も、もうとっくに可笑しくなっていたのだ。
きっと、超能力に目覚めたその時から。
--当然のような顔で尤もらしいことを言ったり、かと思えば気遣ってみたり、誰かを救ってみたり。
彼は結構嘘がうまい。
きっとあの時、本当は彼もあちら側につきたかったのだろうと今ではわかる。集団側にはじめについたから、きっと戻れなかったのだろうと。欺くことに慣れた、本心を悟らせない読めない瞳が印象的な男だった。
しかし現世で会った彼は随分穏やかだ。
先日、見た目の年齢相応にはしゃいでいる様子を見た。あれが演技なのか本当なのか分からないが、本当であって欲しいと思った。二人乗りをした自転車の後ろを汗だくで走る彼。いじめかと心配しつつも、交代したり笑い転げる姿に思い直す。
「俺はアンタにつく。別にここら辺を誰が守ろうとなんだろうと関係ないが、アンタがここを守るというなら俺もそうする」
「……あいつらと、俺はやり合うぞ」
あの時も見なかった冷たい目線だが、忠告をよこすあたりは変わらない。
「ああ。でも俺、あの時ほんとは悪役になりたかったから」
彼はぽかんと口を開けて、少し笑うと、そうだろうと思ってたとぼやいてみせた。
そんな言葉さえ否定せずにいてくれるあんたならと思うのだ。
「誓ったからには非能力者に手は上げられないけど、仲間とやりあうのはしんどいけど、超能力者同士のケンカは誓いに触れない。あとたまには能力を存分に使いたいかな」
「け、結構最低だなお前」
「そっちこそ、スパイみたいなことしてるだろ」
しかし彼は珍しく言葉をつぐんで、曖昧な返事を返すだけだった。今も昔も、と続けようとした俺は、何も言えずに彼の思わぬ態度を見つめていた。




