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SCARLET  作者: 九条 隼
俺達天才サイキッカー!:超能力者達の話
35/58

1-4問い続ける人(君津美風)



--あの瞳が忘れられないのだ。

 目覚めてから何度も何度も夢に見る。

 オレの、最初で最後の非超能力者の友人の亡骸が責め立てる。とんだ裏切りだと誰かが怒鳴る。振り上げられた腕の動きが、ひりつく傷の熱さが、投げられた石の鋭さが、オレに迫る。

 超能力者と非超能力者は分かり合えない。オレたちは隠れて暮らさなければいけない。そこに疑問を抱いてはいけない。


 そうでなければ、また。





 今日も葵は彼女を目で追っている。

 葵が幼馴染と決別を決めてもうじき一年がたつ。中学のとき、次第に葵と幼馴染に距離ができ始めていたのはわかっていた。葵の精神的支柱であったのは彼女だったが、記憶を取り戻したことで、葵に罪悪感が生まれぎこちなくなったことも。

 ……いや、違う。そうじゃない。

 葵が幼馴染と決別を決めたのではない。

 オレが、葵と幼馴染が決別するように仕向けたのだ。


 葵に幼馴染が必要だったことはわかっていた。

 幼馴染が葵を大切にしていたことも知っていた。

 それでもきっと、葵に「誓いを忘れるな」と、「ともに償おう」といえばまた立ち上がってくれることを知っていた。分かってくれることを信じていた。

 だってオレたちはみな、一度死んで、生まれ変わったのだ。

 ……きっと、それは償うために。




 君津美風の目覚めは些細なすれ違いがきっかけだった。文字通り、超能力者と「ただ」すれ違っただけ。


 それまでは、美風はごく普通に暮らしていた。

 葵と異なりそれまで超能力すら使えていなかったが、青い目をした超能力者とすれ違ったとき、珍しい瞳だと思ったその時、すべてが思い起こされた。

 オレたちは超能力者である。

 でもそれは誰にもばれてはいけない。オレは死んで、また生まれ変わった。オレが死ぬときにはすでに非能力者はみな死んでいた。テレビで見た映像にはどこかの超能力者が恐ろしい顔をして人を殺していた。いつからか町は静まり返り、テレビでは何も流れなくなった。どこかの超能力者が対抗集団を作った。でも、 それもかなわなくて。

 一度世界は、滅んだのだ。確かに。オレたちが滅ぼしてしまった。……きっと。

 妄想であればいいと、心配する親に悪い夢を見たと話した。両親はその話を聞いて大笑いした。使ってみせて、と言われて、使えるわけがないとやって見せたのが、美風の人生の二度目の分岐点だった。

 気付けば美風は施設の子どもだった。


 ……オレたちは超能力者である、が、誰にもばれてはいけない。

 確信したと同時に、ひどい罪悪感に死にそうだった。

 きっと彼らは、彼らを滅ぼしたオレたちを許さない。だから償わなければいけない。

 この孤独も、きっと罰だ。分不相応な夢を見たから。理解しあえると夢を見たからだ。分かってくれると、愛してくれると期待したから。

 すべては吐きそうなほど大きい自己愛だった。


 施設で数年暮らして、東馬がやってきた。彼は前世で対抗集団で同じ班だった。

 独りじゃないのかと安心したのもつかぬ間、彼には記憶がなくて。かと思えばものの数分で「あ、おもいだした!」とあまりに軽く目覚めた。美風は彼を単純馬鹿だと思っている。でも、そんな素直な彼がいなければきっと美風は自分を保てない。



--だから。

 葵もそうであるはずだったのだ。

 超能力者と非能力者は分かり合えない。そんなこと、前世で痛いほどわかっているはずだから。

 きっと巻き込むと仄めかせば、わかってくれるはずだった。

 中学までは、と止めたのは東馬だ。彼女を気に食わないやつといっていた割に庇うような姿勢には驚いたが、思い悩む葵を見て、うなずいた。

 葵は最後の日、別れを告げた。




 これが正しいはずだった。

 超能力者である葵と、非能力者である赤桐楓は分かり合えない。いずれ巻き込むと。きっといつか争いの火種になる。必ず裏切り裏切られる日が来る。

 そのはずなのに、決別した次の日は葵はひどい顔色で。翌週になって連絡のひとつも取れない。スマホを開かせたら、泣きそうな顔をする。高校になっても、彼女が同級生とふざけあっている姿を見て、目で追いかける。

 正しいはずだった。

 でもこんなことが本当に正しいのか。オレはまた間違えたのではないか。自問自答は終わらない。

 それでも、時折監視するような、誰かの冷たい視線を感じていた。

 その視線がない時でも、それを忘れた時はなかった。

 あの世界を滅ぼしたのは、オレたちだと。






--絶対に負けられないと震える葵の背中に手を添える。


「多分、彼は現世から超能力者になったやつだ」

 自棄に突っかかってくると思っていたやつが超能力者だった。超能力者であれば二度と前世のような真似はしないはずだが、それをわからず挑んでくる。現世からの超能力者。彼らを、新型・二代目と呼ぶ。そして前世からの超能力者を旧式・初代と。


「でも、きっと、あいつの後ろに、初代の超能力者もいるはずだ」

 対抗集団のときと同じ班の人数でのマッチングバトル。リーダーと、サブと、メンバー三人の五人体制。それを要求してきたのだから、唆したやつがいるはずで。


「でも、そうだとして、……なんでこんなことを?」

「……わからない」

 わからないけれど、なんとなく、その誰かを、想像できる。超能力者特有の、変化した青い目を見たわけではない。でも、超能力者同士は、なんとなく、同類がわかるのだ。--それが初代同士であれば、なおさら。 




「ごめん、葵。オレのせいだ。あの時オレ……」

「ううん、ちがう。知ってたよ、美風は優しいから。僕も、なんとなく、それがだれかわかる気がするよ」

 振り向かずに葵が言う。間違いないとうなずく東馬はどこか怒りをこらえる様な顔だった。

 でも、と葵が振り向く。

「でも、こっちは翔太を入れて四人。あと一人、どうしようか」

「もう決まってる、その時になれば来る」

 突き刺すような冷たい返事に葵が少し怯む。東馬が噛みつく前に、いつもは無駄な話をしない翔太が付け足した。


「多分」

「いや多分って」

「恐らく」

「え、それ大丈夫?いやどこ見てるの?」

 珍しく自信がないらしい。

 新型のくせにコントロールが気持ち悪いくらいうまくて自信満々、オレたち超能力者が嫌いで無駄口をたたかない。

 そんな普段の翔太に突っかかっている東馬は、なおさら今のこの様子に何も言えないらしい。

 心配する葵をよそに、翔太はいつもに増して目を合わせない。


「こ、来なきゃ俺がもう一度出る」

「責任感強すぎない!? その時は向こうに説明するから……」

「待ってください葵さん! そしたら俺が!」


 美風はぎゃあぎゃあと言い合いを始めた三人を見守る。

 あちらのサブもわからない、こちらのサブもわからない。これはもう4対4でいいのでは。

 心の中でため息をついた。しかし何故だか三人のその後ろ姿に懐かしさを感じて、場違いにも少し笑ってしまった。




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