1-2誓いを貫く人(朝風東馬)
今も探している人がいる。
とても綺麗な目をした不思議な人。
その人のことは、昔から知っていた。
超能力者の中でもリーダー的存在。突飛した能力。緊急事態だと呼び出された超能力者たちの中で目立つ、綺麗な澄んだ瞳。
その人が超能力者に声をかけたと聞いた。
なんとか人の中に紛れていた器用な超能力者も、人目を避けて闇に生きる超能力者も。
「確かに彼等は相容れない存在でしょう。皆、迫害を受けたのは忘れられないことでしょう。けれど、事態は深刻です。無関係の子供は死にました。その母も、父も、家畜もみんな。……それでも動かず誰が動くというのです」
静まり返った地下室で、その人の凛とした声に聞き入っていた。
真っ直ぐに前を見るその人とは裏腹に、集められた面々の反応は様々だった。
集められたからには肯定的な超能力者なのだろうが、それでも踏み出すことには積極的にはなれなかったのだろう。
きっと俺とも相容れないのだろうと、ぼんやり思った。
だってその人はとても凛々しくて、売り飛ばされた過去を、笑われた傷の数々を忘れられない俺には眩しすぎるのだ。
「僕も、賛成する。きっと僕の力は戦いには向かないけれど、情報集めなら得意だ。もしかしたら、彼らの真意も聞こえるかも」
全身黒い服を身につけた不安げな男が手を挙げる。
指先が震え声も掠れているが、不思議と真っ直ぐ耳に入ってきた。
「僕たち超能力者たちの傷が元だというなら、僕たちでしか癒せない。僕たちが、いかなきゃ」
--彼が貫かれるその瞬間を見ていた。
彼の首が飛んでいくその瞬間も。
すでに音は何も聞こえない。霞んだ視界で飛び散った血液だけがやけに鮮やかだった。
期待を捨てられない、孤独をいたく恐れる人だ。それでも孤独に慣れようと身を縮こまらせる人だった。
せめて、せめてそばにと手を伸ばす。
ああでも、彼もあの人ももう、この視界から消えてしまった。
手を伸ばした先には、もう、何人も立っていない。
怒りに震えたままの男たちは足掻いたままだ。休む事なく刃を突き立て続け、超能力を駆使し続ける。まさに、虐殺だ。
その顔に悟る。
こちらの声など一切気に留めない、頑なな顔だった。
話し合いなんて無理だった。
俺たちでは彼らを癒すだなんて無理だった。
だって、俺たちですら分かり合えないのだ。同じ傷を持っている同じような存在のはずなのに分かり合えない。
超能力者と非能力者の話だけではない。
それだけの話ではなかったのだ。
言葉にできない虚しさ悔しさも次第に薄れていく中で、その人の言葉が頭の中でずっと繰り返されていた。
「守らなければ。この力を持って、この力を憎んで、でもきっとこの力をなくすことはできないのだから、守るために使わければと思うのです」
--守るために使うのだ。
今でも、自分の超能力を良いと思えない。
超能力者として生きて嬉しかったことなんて、それを上回る不幸ばかりで消え去っていった。
それでもあの時のあの人の綺麗さだけは消し去りたくないのだ。
あの時、集団に所属した時に誓った。この力を守るために奮うと。
同時に世界が開けたような気すらした。
「俺たちは、この世界を守らなければいけない。憎まれるだけの力じゃなくて、守るための力にすれば俺は俺を許せる、俺や、あの時力が足りなかった俺たちを許せる」
あの誓いを貫くために、俺は生き続けるのだ。
あの人の美しさが損なわれないように。
たとえ間違えようとも進まなければいけない。
「だから葵さん、俺のことも憎んでください。あなたが間違ったんじゃない。美風が間違ったんじゃない。俺たちが、選んだんだ。それしか道が見えなかっただけだ」
前世と現世の彼は、違う。
あの時世界を怨んでいるような、憎みきれないような瞳をしていた彼はもういない。
それが良いのか、悪いのかは俺には決められないが、少しだけ、そこに好きだったあの人の瞳を思い出すのだ。
だからきっと、彼のそばに居る俺は、あの人を、その心を忘れずにいられる。
「このたたかい、俺が勝ちます」
同じ歴史を、俺たちは繰り返さない。
悪意も感じさせないような顔をした超能力者と対峙する。
彼はやはり、憎むわけがないと叫ぶのだ。その声の中にも、あの人が生きているような気がした。




