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SCARLET  作者: 九条 隼
俺達天才サイキッカー!:超能力者達の話
32/58

1-1発端(木山葵)

最後に入りきらなかったおまけが活動報告内にあります。

ギャグをお求めの方はそちらもどうぞ!



--僕たちは超能力者である。

 そう名乗るには、僕たちは多大な後悔と恥を抑え、勇気を振り絞らなければいけない。

 でも、そう。

 僕が語るのには、きっとこの話はふさわしくない。



--まずは、超能力を知らなかった幼い僕と、それから僕の大事な幼馴染の話をしよう。


 僕は昔から内気で弱虫な子供だった。

 それに拍車をかけたのは、小さいころから続く夢だった。

 夢の中では、僕は20,30歳ほどの成人男性だった。

 その男は少し臆病で、いつも地面ばかりを見つめている。さらには、時に耳栓をしてみたりヘッドホンをつけてみたりして、世間の音を嫌っている。

 人も嫌いなその男は、人の中で暮らすことができずにいつも一人だ。静かな闇に紛れるような黒いコートを羽織って、必死に自分を守っていた。

 人に言えないような仕事で生計を立て、孤独に慣れたがっていた。


 その夢は、年を追うごとに鮮明になっていって、次第に内容は物騒になっていく。


 男はある時女性に声をかけられて、初めて友人を得る。

 おかしなことに夢の中では友人の誰もが超能力を持っていて、たとえば炎を操ったり、武器を宙に浮かせて自在に動かしたりしていた。彼らも同じく身を隠してそれぞれ薄暗い仕事をしながら生きてきたのだけど、やがて能力者は明るみに出され、能力者同士で争うようになったのだった。

 夢の中の僕はいろんな人の心の声が聞こえて、情報収集や味方の能力者間のつなぎをしていた。

 でも争いはだんだんひどくなって、僕は能力者に貫かれて、死んだ。


 やけに現実味があって、生々しくて。粉塵のにおい、皮膚を焼く炎のあつさ、貫かれる衝撃に次第に抜けていく力や遠ざかっていく誰かの叫び声。全てが揺れて混ざる視界と体が落ちた地面の硬さ。

 自分が死んだ、そんな感触がした。


 夢から醒めた僕は大泣きをして目覚める。

 飛んできた両親に縋り付いて泣いて、その日はいろいろな声が聞こえる気がして、怖くて怖くて外に出れなかった。

 幼稚園にも行けず、困り果てた両親が、ある時少女を連れてきた。


「お隣さんの楓ちゃんよ、葵。仲良くしなさいね」

 同じくらいの年の女の子だった。可哀想な子なのよと母は語る。だから仲良くしてあげなさいと引き合わせられた女の子は、その言葉にあまり反応を示さなかった。

 しかし、僕は一目で彼女を好きになってしまった。

 幼馴染は真っ赤な髪に黄色だか金色だかの瞳で、とでも高価な宝石を詰め込んだようでとてもきれいだった。にこりと人形のように笑った幼馴染に、僕は見とれてうなずいたのだ。

「かえちゃん、あそぼ」

 舌足らずな僕を笑わず、声におびえる僕に呆れず、幼馴染だけはそばにいてくれた。

 幼馴染は珍しい見た目をよくからかわれる。泣き虫な僕といつもいるから、同級生たちはいつもちょっかいを出してきた。

 泣き出す僕とは逆に、言い負かしたり、時に手をあげられやり返して泣かしたり。幼馴染は、だれにも負けない僕のヒーローだったのだ。


 ヒーローという大きな味方を得たのと反して、次第にいろいろな声は明瞭になっていく。

 誰かが話すのと同時にいやそうな声が混ざる。あいつが嫌いこれが嫌あいつは死ねばいい。

 そんな昏い掠れた声ばかりが、夢と同じく誰かの心の声だと気づいた時から、僕はまた布団に引きこもった。



「遅刻するよ」

 幼馴染は布団に引きこもる僕を揺すって起こしたがった。両親までもが怖がりの僕を気味悪がった。それでも幼馴染は僕を構い続ける。


「ほっといてよ」

 泣き声交じりの返事に、揺れは増していく。

「起きてるじゃん」

「起きない、がっこういかない!」

「ダメだよあたし皆勤賞とりたいんだからぁ」

「かえちゃんはいけばいいじゃん!」

 幼馴染はあきらめない。

 僕の訴えが増えるにまして、揺れも同じく激しくなった。

「なんでいかないの?」

「だって」

 揺れが止まって、言おうとして、口をつぐんだ。

 きっと両親のように、知ったら幼馴染だって気味悪がる。だから言いたくなかった。僕にはもう幼馴染しかいなかった。

「なんでいかないの?」

「やめてよぉ揺らさないでよぉ」

 仕切り直しと言わんばかりに幼馴染はまた揺する。

「いわない、かえちゃんには絶対言わない」

「は?」

 不満げな声と一緒に荒々しい揺れによって僕は布団から転がり落ちた。


「いたい! なにするの!」

「なんでいかないの?」

 仕切り直し二回目だ。

 あまりのしつこさと畳を転がった痛みに泣き出した僕にも、幼馴染は容赦ない。


「だって、だってみんなの声が聞こえるんだもん! みんないっぱいしゃべるんだもん!」

「あたしよりは葵のがしゃべる」

「ちがうよ! 心の声だ、みんな僕のこと嫌いっていう! みんなぼくのことうざいって、気味悪いって! お、おがあざんだって……!!」

「ウルセー声デケー」

「かえちゃんまでいうぅぅ! ばかああああ!! ばか! ばか!」

 けらけら笑う幼馴染はやはり容赦がなかった。それでも本格的に大泣きし始めた僕のそばにいてくれたのは、両親ではなくて、彼女だけだったのだ。

 泣き出す僕の甘える先には、いつも彼女がいた。


「あたしは? あたしの心の声は、何て言ってるの?」

 いつもより遅い学校までの道のりで、幼馴染は、僕に聞く。

「……かえちゃんのは、聞こえない」

「なーんだ」

 少しつまらなそうに言いながらも、幼馴染は僕の手をはなさなかった。

 泣き顔で登校した僕に先生は幼馴染を叱ったけれど、僕もまた、幼馴染の手をはなさなかった。

 きっと幼馴染の心の声が聞こえたとしても、そう悪いことじゃないんだろうなと、彼女のそばは安心した。

 彼女のそばにいるときは、なぜだか誰かの声は気にならなかったのだ。





--だからこそ、余計に。

 能力者同士の争いはただの夢ではない。

 僕ら超能力者の罪は、償わなければいけないのだ。

 そこに、どうしても彼女を巻き込むことはできなかった。


「リーダー、大丈夫ですか」

 東馬の気づかわし気な声に、笑みを返す。

 先に帰っていて、と頼めば、美風に引きずられ何度も振り返りながら東馬も教室から出ていく。


 今度こそは間違えない。今度こそは、僕が守るのだ。

 ああ、でも、あれほど傷つけられることが怖くて引きこもっていたのに、これから大事だったはずの君を傷つける。

 春になって暖かくなったはずなのに、なぜだか手先は冷えていく。

 掌ににじんだ汗を、くたびれた制服の裾で拭う。震えた指先に気が付いて、情けなさに泣きそうだった。

 どうか許してほしい。

 いいや、だめだ、きっと君はすぐに許して忘れてしまう。傷付けられることに慣れているから。

 だからどうか、許さないで。


 どうしてもやらなければいけないことがある。

 そこに君を混ぜることができない。

 今になっても君を優先できない。

 僕はきっと君に甘え続けてしまう。

 卒業証書を握りしめて、だれもいない教室で、窓の外を眺めて待ち続けた。

 今日で最後だ。中学生活も、こうして悩むことも。これからはちゃんとしなきゃいけないんだから。




「卒業おめでとう」


 やっときた幼馴染は、昔と変わらない笑みで僕に話しかけた。そこに安心する僕がいる。

 なぜだかブレザーのボタンは一つもなくて、リボンタイもついていない。きっと友人や後輩にとられたんだろう。もしかすると、あの「友人」にもあげたのかもしれない。

 胸の奥が重たくなって、言いたかった言葉を一度、飲み込んだ。このままでは、やっぱりだめだ。


「あの」

 入口から歩み寄ろうとした幼馴染が、足を止めて首をかしげる。




「もう、僕とかかわらないで」


 幼馴染は少し驚いたようだった。

 その姿だけ見て、僕は教室から逃げ出した。

 選んだ言葉を、彼女はどう思うんだろう。どう感じるんだろう。何か返されることが怖くて逃げだして、その日はメールも確認せず、そのままベッドにもぐりこんだ。

 電源を落としたままのスマホは翌日も開けられなくて、一週間後、やってきた美風と東馬に促されて漸く画面を見た。

 そこには幼馴染からのメッセージはない。


 安堵と一緒に、勝手な寂しさがこみ上げてくるのだった。




 きっと、これが僕の罰だ。




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