1-閑話
「なんでいるんだよ」
死んだ目をした男は眉を寄せる。ソファに寄りかかりぼんやりしていた彼を蹴飛ばした女は、我が物顔でソファに腰掛けた。
「気になるんでしょ、終わった後の話。興味ないと思ってたから話さなかったんだけど、まさか興味があるなんて思わなかったな。あはははごめんね!」
女は笑う。男はさらに眉間のしわを増やした。
「聞いたのか」
「そりゃ聞くよ、担当だから」
「担当?」
女は笑ったまま頷いて、芝居掛かった素振りで両手を広げる。
「君が気になるというのなら、彼等の話をしてあげよう」
男は何も言わず、女を見上げた。砂時計で時間を感じることも諦めてから、どれくらいがたったか。そこには既に時間の概念はない。しばらく沈黙が落ち、男が口を開く。
「……死んだんだろ?」
「死んでも大抵生まれ変わるよ、時代はエコだからね」
「エコかそれ?」
「エコでしょ。新しく作らず、着終わった服は洗濯機に放り込んで加工して綺麗にすればまた使うんだよ。リデュース、リユース、リサイクル。知ってる?」
男は首をかしげる。
「兎にも角にも、彼等は洗濯機に洗われ生まれ直したわけだ。しかしそれは急だったから不完全だった。つまり彼等は前世の汚れ……記憶が完全に落ちたわけじゃない。ちょっとした刺激で前世を思い出しやすくなってるわけよ」
わかるかな、と女は男に尋ねる。男は曖昧に頷いた。
「力があれば奮う。しかし、経験があれば学びがある。彼等は前世の顛末を回避しようと学ぶ。そして誓いを守るわけだ」
誓い、と男は険のある声で繰り返した。
「例えば、こういうのとかね」
女は学生の持っていそうな鞄から黒いファイルを差し出した。
男は床に座り込んだまま、恐る恐るファイルに手を伸ばす。
黒いファイルの表紙には白地のテープに無機質な文字を刻まれている。
「……超能力者の、二度目の争い」
ゴクリと大きく喉がなる。
「震えてるね、声も、手も。人間らしいね」
そっと女は声をかける。男は何も言わず、ファイルから目を離さず文字の上をなぞる。
「二度目」
「残念ながら、学んだ結果、小競り合いだよ」
女はにっこり笑って、呆然とファイルを見つめる男を見ていた。
彼等の接触によって彼等は再び能力に目覚める。
償うためか、元々目覚めるように仕組まれていたのか、そもそもなんの意味もないのか。その疑問を解消することはできない。
そもそも、その力の意味などない。
人間が勝手に後付けしただけであり、人間が無意味に耐えられなかっただけだ。
彼等は二度目の人生を迎えた。
二度目の超能力者たちは、一度目よりも強固に身を寄せ合い、息を潜め、暮らしている。
二度目の争いもまた、一度目よりも密やかに起こり、静かに終わった。
3/23修正
「洗濯機に放り込んで綺麗にすれば」→「洗濯機に放り込んで加工して綺麗にすれば」
3/25タイトル修正




