閑話2
言葉にできなくたって、世界中に自分の想いは伝えられるよ。
そう言って笑ったあの人を、僕は今でも忘れることができない。
ふいに見せる儚げな表情をどうにかしたくて、自己満足的に贈った粗末な紙きれ。それに驚いたような顔をして、それから小さく笑うから。僕はそれ以来、ずっと絵を描き続けるんだ。
口下手だけど、なんて。
僕らの前から姿を消してしまった貴方。この世界からいなくなってしまった貴方。
そんな貴方にいつか届くように、僕はずっとこの想いを手から伝えていくんだ。
ねえ、先生。
聞こえていますか。
僕はあれから随分色々な絵を描いてきた気がします。
そのどれもが貴方に見せるには不出来すぎて見せるのは恥ずかしいけれど。世間は僕を評価し始めてくれているけれど。
ずっと貴方を思って描いてるんです。
淡い赤色の背景の中で、僕に笑いかける貴方の姿を忘れられないのです。だからね、僕、この間コンクールで出してみたんだ。
桜吹雪の中で佇む貴方の後ろ姿。我ながら随分できたと思ったんだけどなぁ……。どうやら僕より出来のいい絵があったらしいんだ。
タイトルは、憧憬。淡い世界の中で佇む一人の少年の後ろ姿。ネタが被ってちょっとムッとしちゃったよ。
でもね、やっぱりね、僕の絵とは全然違うんだ。
背景は夢のなかみたいにおぼろげなんだ。でもね、その人だけははっきりしてて、まるで神様みたいなんだよ。はっとするくらい綺麗で、繊細な、夢のような世界。なんでだかは分からないけれど、赤いスカーフを巻いているその人。凛とした後ろ姿に手を伸ばして、ふとそれが絵だということに気付いて現実に引き戻される。
これが天才かあ、なんて。ぼんやりとその絵を見ていた。
いつか僕も、貴方をこんな風に書けるようになりたいなぁ……なんて。
そう思っちゃう時点で、この人には負けちゃってるのかな。
いつかあなたに、僕の想いが届けばいいのに。……なんて。




