非才陰陽師・裏-2
陰鬱とした顔の女。カップル。サラリーマン。じいさん。ばあさん。女子大生。行きかう人たちの間を縫って歩いて、真っ青な顔をした隣を見た。
「人……ひとおおい……Unbelievable……」
「ほら、しっかり」
ふらふら歩くリッカを支えて、交差点を曲がる。
この街に来たのは久しぶりだ。こんなに人通りが多かっただろうか。……なんて、あまり覚えてはいないが。でも確か、何度かここに来た気もするかな。
それにしても、リッカじゃないが吐き気がするくらい人通りが多いところだ。ふと目に入った女の手首に見覚えのある数珠がついているのを見て、嗤った。ほんとに、こんな街の中で陰陽師が隠れ住んでるだなんて馬鹿な話、誰が信じるんだろう。随分昔の話の様な気がする。最近は色々幸せすぎて、昔のことで覚えていることなんて少ない。思い出す暇すら、必要すら、無かったのだから。両親の顔すら思い出せませんなんて笑い話だ。
「うっ……死ぬ、そろそろやばい」
「ほら、あと少しだから」
――ああ、この街は人嫌いのリッカには酷だったかもしれない。教室ですら一時間も座っていられないくらい人嫌いの彼女は、今日も今日とて野暮ったいメガネのレンズの奥の青色の目を揺らしている。
本当はもう少し暗いんだけど……本当に、自分の無力さが嫌になる。ここまでリッカの症状が酷いのも、俺の無力さが関わっているんだろう。ごめんな、なんて思うけれど、やっぱり声には出なかった。
それにしても、本当に人が多い。
「やっぱりここにはいないのかな……」
「大人しく家で待ってた方が良かったのかもね」
ああ、折角目撃発言があったって言って、笑ったと思ったのにな。泣きそうな顔をしたリッカの頭に手を乗せれば、少しビビったように震えて、また笑った。
どうやらまだ、触れられるのは慣れないらしい。まあ、それもそうだろうなんて少し泣きたくなった。
きっとこれは、同情だ。
「じゃあどうせなら、俺の実家来る?ここの近くだし、山奥だから色々あって結構楽しいよ」
「……あったの? 実家」
なんだそれ、なんて笑って、そう言えばリッカとミズキはこっちで育ったわけじゃないことを思い出した。二人にとっては実家なんて言われてもピンとこないんだろう。
まあ、うちの連中はみんな、それぞれ色々あるから。
俺の幼少期なんざ、リッカ達に比べれば何でもないんだろうな、なんて。こう言うのを比べるのは良くないってわかってはいるんだけど。汚い過去を誇れるくらい強くはないんだよ、とかなんとか言えば不憫な子みたいだ。本当はまあ、今ではもう世界で一番ってくらい幸せなわけだが。
「そりゃ、あるよ。俺、日本生まれの日本育ちだからね。まあ、あんまりいいところではないけど」
そうなんだ、なんて。ぼんやり何かを考えていたリッカが、ふと俺の顔を見上げて笑った。
「でも、行きたい」
うん、なんて。
「じゃあ、行こう」
こんな俺でも、お前らと一緒なら強くなれるんだよ。こんな俺でも、お前らに何かを返せたらって思ってるんだよ。
昔はこんなこと、考えもしなかったなぁ……。
――ああ、そう言えば。
昔、なんだか付きまとってきた奴がいたような気がするんだけど。……誰だったかな。
まあ、良いか。
それよか、とりあえずはこの馬鹿の体調をどうにかしなきゃな。
3/22修正
レンズの奥の紫かかっため→青色の目
青い目なんだけど→もう少し暗いんだけど




