8.ひと安心して
水牛たちが戻って来た。
ワギューが群れに近づき、ノアの仲間になったことを説明しているようだ。
そのうちの一頭が、心配そうにノアをじっと見つめる。
「ワギューのお母さんかな?」
ノアは慎重に群れに近づいていった。
「みんな、助けてくれてありがとう」
ノアが声をかけると、水牛たちがブモォと軽く鳴いた。「どういたしまして」といった感じか。
そういえば蟻にも助けられたと、足元に向かって「蟻さんたちもありがとう」と言っておく。
ほんの少し、大地が揺れた気がする。蟻たちも反応してくれたようだ。
『ノア。僕たちの縄張りに案内するんでいい?』
ワギューが大きめの声で、勢いよく尋ねてきた。ノアの仲間になったことが誇らしく、みんなに自慢したいようだ。
「……ちょっと戻って、荷物を拾いたいんだけど」
ノアは迷いながら口にした。
次兄や護衛は生きているだろうか。
助けるべきだという気持ちはある。だが、医療技術が進歩していないこの世界では、怪我が命取りになる。
警察のような組織はなく、落とし物は拾ったもの勝ちだ。
城壁に囲まれた街の中で、いい領主なら治安はいいが、そんな場所の方が少ない。
ノアは自分の荷物が積んであるミューを見た。
まだ身体が小さいノア用のミューは、小さめのダチュパだ。積み荷も少ない。
兄や護衛たちの荷物で、使えるものがあったら回収したい。
この世界の常識で、行動すればいい。
そう思うのだが、前世の知識が……良心が、追い剥ぎのようなことをしたくないと主張する。
中途半端な神のせいだ。
なぜ、こんな葛藤を抱えなければいけない?
『ノア。早く行かないと、他の商隊や盗賊に奪われちゃうかもよ』
鳥のヒューイが、ワギューの背中から声をかけてくる。
「そうよね」
迷っている暇はない。
「足の速い水牛二頭と、ワギューとヒューイ。さっと行って、使えそうなものを取ってきましょう」
『ノア! あたしは?』
ミューが不満げに声を挟んだ。
「ミューは足を痛めてるでしょ。それに、今、積んでいる荷物を下ろさないと、拾ったものを積めない。ここで待機してて」
ミューは返事をせずに、ブフーと荒く鼻息を吐いた。
落ちないように荷造りをするのは、それなりに手間がかかる。
今は水牛がいるのだから、そちらに頼んでもいいではないか。
こういうことがあるから、名付けをしてコミュニケーションが取れるようになるのも善し悪しだ。ちょっと面倒くさい。
まあ、自分を嫌っていたり、嫌々着いてきたわけじゃないとわかるのは、よかったけど。
ノアは、進み出てきた水牛の背中によじ登る。
ワギューの背よりも視線が高く、スピードがある。振り落とされないように腕と足に力を入れたくても、身体が大きくて大木にしがみついているみたいだ。
先導してくれるヒューイが右側に逸れた。
まっすぐ進むと、ノアを襲ってきた盗賊たちの亡骸があるのかもしれない。
直接手を下したわけではないが、ノアが命じたことだ。
盗賊たちは踏み潰されたのか、怪我をして逃げ出したのか……。
ノアは自分自身に尋ねてみる。
――知りたい? それとも知りたくない?




