7.名付け
「名前を付けると、意思疎通ができるようになるんだよね」
その度にギフトを使ったことになるなら、先ほどのチャラい神様とのご縁が深まってしまう。
そう考えると、なんとなく気が乗らない。
迷っているのを見抜いたのか、待ちくたびれたのか、ダチュパがぐいぐいと顔を押しつけてきた。
「あ~、わかった。もう」
ノアを乗せていたから囮に巻き込まれたわけだし、盗賊に襲われたときにパニックにならずにその場にいてくれた。
多少の恩は感じる。
「えーと、ダチョーとか?」
ダチュパ八号は首を振る。
「駄目なの? じゃあ、ミュー」
鳴き声がそんな感じだったから。
ミューの身体が光った。
『ありがとう。あたしはミューね。よろしく』
かわいいギャルのような声だった。
性別を気にしていなかったが、ミューはメスらしい。
それを見ていた水牛が、尻尾を揺らしながらノアに身体を擦り付けた。
「え、あなたも?」
ノアは思わず声を上げてから、ヒューイとミューを見た。
ヒューイは少し考え、爪で頭をかしかしと勢いよくかいた。
『ノアはしばらくこの辺に隠れ住むつもり?』
「……そうね。家族のところには戻りたくないけど、このまま一人で歩いていたら、人さらいにつかまるだけだから」
『それなら、この水牛の縄張りに連れて行ってもらうのがいいと思う』
ヒューイが羽ばたいて、水牛の背中に移動した。
『そーだね。安全な水場の近くがいいね』
ミューもヒューイに賛同する。
「街道を通るだけで、この土地のことはよく知らないもんね」
言われてみれば、そうだ。
気付かずに危険な猛獣のエリアに入ったら、大変だ。
「えー、それじゃあ、名前だよね。角があるから男の子?」
水牛は頭を上下に振った。
『水牛は雌でも角があるよ』
ヒューイが新しい知識をくれた。
「カウとかバッファローとか……ウシ、ワギュー、モッツァレッラ・ディ・ブファラ」
ノアは前世の言葉をいくつか挙げた。
「んじゃ、ワギューでどう?」
水牛がうなずくと、ふわりと光る。
『僕はワギューなんだ。わーい。みんなに自慢してこよう!』
「ちょっと待って。他の人も名付けなきゃいけないとか、困るから」
ノアは無邪気に喜ぶワギューを止めた。
『なんでさ?』
ワギューが首をかしげる。
「だって、みんなに名前をつけたら、情が移るでしょ。情が移ったら……食べにくくなるじゃない」
ノアはうまい言い訳が浮かばず、正直に答えた。
『食べるの? 僕たちを?』
「……人間はお肉を食べる生き物なのよ」
遭難した場合、ダチュパも食べる。だからミューに名前をつけるときも、ためらった。
この先、食糧難になった場合に処理できなくなり、共に餓死する可能性が高くなったぞ――と。
『そっか。じゃあ、食べられないくらい強くなるね!』
「……そう来たか」




