3.家族の決断
二人の盗賊が、前に立ち塞がって両手を広げている。
護衛が剣を振るって、道を開く。
あとはひたすら走るだけだ。
後ろから闘っている音や怒鳴り声が聞こえるけれど、振り返る余裕なんてない。
恐怖でダチュパにしがみつくと、スタミナが切れるのが早くなる。
私にできるのは、恐怖を押さえつけ、できるだけ普通の騎乗スタイルを保つことだけだ。
呼吸を整え、気持ちを落ち着ける。
先頭を護衛が走り、姉と私は併走する。
群れからはぐれたら、その個体からやられるのだ。
しっかりついていかなければ。
十三歳の姉に比べたら、十歳の私の乗馬技術は劣っている。
姉がときどき後ろを振り返って、小さく悲鳴を上げているのを、余裕があるなと思っていた。
「あ、塩の袋を……」
捨てたのか、奪われたのか?
「ああ、小兄さん! なんてこと……」
二番目の兄が? 言葉を切らずに説明してくれればいいのに。
どどどっとダチュパが駆け寄ってくる音がした。
さすがに私もちらりと後ろを向く。
父や兄が追いついてきたのだ。
母が少し遅れている。
盗賊は諦めずに、追いかけてくる。
誰かのダチュパを奪った盗賊が一人、追いつきそうだ。
その後ろを走って追いかけてくる盗賊がいる。
一人が誰かを引きずり下ろしたら、続く盗賊たちが群がってくるのが想像できる。
なんて手強いのだろう。
身体がぶるりと震えた。
だけど他の家族と護衛と合流できた。
三人で先行するより、安心だと思えた。
たとえ、事態はまったく変わっていないとしても――
父が「このままじゃ全滅だ」と呟いた。
「誰かを囮にするしかない」
誰がそれを言ったのか、わからない。
そのまましばらく走ったので、それくらい追い詰められているということかと思った。
長兄が私に近づいてきた。
怖がらなくていいと慰めてくれるのかな。
そんな風に思ったのに……
「悪く思わないでくれ」
長兄は、私のダチュパの手綱を横から掴み、グイッと下に引っ張った。
私のダチュパはいきなり首を引っ張られて、態勢を崩す。
「え?」
私はダチュパから投げ出されないよう、太ももでダチュパの腹を締めた。
「ネイは縁組みが決まっているんだ」
長兄はそう言って、私のダチュパの鼻面を鞭で打った。
ネイとは、姉だ。つい先ほどまで、併走していた少女。
鞭打たれたダチュパが悲鳴をあげる。
私のダチュパは、衝撃に耐えきれずによろめいた。このままでは横倒しになる。
倒れたダチュパに足を挟まれたら、動けなくなる。
私はダチュパの背中に足を引き上げ、背中を両足で蹴った。
ずだんと音を立てて倒れるダチュパ。
少し離れたところに、私は投げ出された。
乾燥した草むらに、身体が叩きつけられる。土埃が舞う。
目の前を叔父が走り抜けていった。
「うひょ~」
下品な声を上げ、こちらを振り返る盗賊たち。
遠ざかる、家族と護衛。
次男と護衛が二人、いないようだ。
ダチュパに乗った盗賊と足の速い盗賊は、家族たちを追い続ける。
だけど、それ以外の奴らが私に向かってきた。
私は、囮にされたのか。
打ち付けた肘や膝がじんじんと痛み、枯れ草で切ったところに血が滲んでいる。
恐怖で喉が張り付き、声も出ない。
枯れ草を踏む足音が、ゆっくりと甚振るように近づいてきた。




