2.信じられない
私たち家族八人に、護衛が五人。
護衛たちは、私たちを守るように前後左右に陣取っている。
盗賊たちは進行方向を抑えている。
私たちは戻るべきか? 街道を外れて逃げるべきか?
気付かないふりをしてダチュパの速度を落とせ、と父の指示が伝わってきた。
父と護衛のリーダーが言葉を交わす。
「突破できないか?」
「盗賊は十人程度。我々護衛が五人。分が悪いです」
「荷物の一部を渡して引いてもらうというのはどうだ?」
私たちは北で採れた塩を南に運び、南で採れた金を中部や北へ運んでいる。他と比べても価値が高いものだ。
「相手によります。それで引く者も、根こそぎ寄越せという者も……命の保証もありません」
護衛によると、食い詰めている場合は、少しの塩や食べられない金など、喜ばれないという。
盗賊たちはダチュパに乗ってはいない。近隣の者たちだろうか。
「護衛仲間が把握するような手練れの盗賊ではないですね」
距離が近づき、相手の顔が見えてきたのだ。
まともな住人なら働いている時間だ。
街道沿いで、水や食料を売るわけでもなくぶらぶらしている人間など、ろくなもんじゃない。
「一か八か蹴散らしてみるか」
父は、前進することを選んだ。
護衛の五人に、父、叔父、三人の兄を加えたら、戦える男は十人だ。
母も自分の身は守れるし、十三歳の姉も少しはいけるだろう。
問題は私だ。
どうしても前世の倫理観が邪魔をして、暴力に暴力で返すことにためらいが生じる。
臆病で、足手まとい。
そんなふうに嫌われる要因になってしまう前世の記憶が、本当にうっとうしい。
「はっ」
父の合図でダチュパの腹を軽く蹴り、速度を上げる。
前方の盗賊たちに緊張が走った。
手に持っているのは棒っきれや、農具のようだ。
一人の護衛が先行し、「なにか用か?」とダチュパの上から声をかけた。
血走った目の盗賊が、棒を振り回して襲いかかる。
護衛はそれを剣の鞘で受け、すらりと抜いて盗賊の腕を切りつけた。
「ぎゃー!」
切られた盗賊が悲鳴を上げる。
もう一人の護衛が飛び出した。二人で盗賊を斬ってまわれば、道は開ける。
完全に討伐しなくても、怯んだところを駆け抜けて、振り切ればいい。
そういう作戦だったが、ダチュパよりも人間の方が小回りが利く。
応援に行った護衛は、左右から棒でダチュパの腹を突かれた。
訓練されたダチュパでも、痛みには耐えられない。首を振って、背中の人間を振り落とす勢いで暴れ出した。
護衛は振り落とされないように、必死で手綱を引いた。
「素人なのに、狙い所がわかっているな」
護衛のリーダーが舌打ちした。
「蹴散らすだけじゃすまないか。手加減するな!」
リーダーの一言で、こちらも敵も空気が変わった。
「お嬢さんたちは、駆け抜けてください」
姉と私の横に護衛が付き、戦闘には関わらずに走り抜けろと言う。
物語のヒロインだったら、特殊な能力でみんなを助ける場面だ。
だけど、私はそのあとにモンスターを見るような目つきに耐えられそうもない。
心の中で「みんな、頑張って!」と本気で祈った。




