1.転生した少女
生まれる前のことを、うっすらと覚えている。
前世は日本人で乃愛という名前だった。
亡くなったときに神様に呼ばれて、特殊能力をいくつか与えるから異世界を救うようにと言われた。
ただ、その時のやり取りは、この異世界で産声を上げた瞬間に大半を忘れてしまった。
赤ちゃんの状態では、文字で書き残すこともできず。
それよりもお腹が空いたとか、おむつが気持ち悪いとかいった生理現象の方が重要で――
この世界に違和感を感じながらも、生きていくしかないわけだ。
私はノア。
十歳の女の子だ。
家族がみんな赤い髪の中で、私だけ薄くピンクのような色だった。
なんとなく嫌われていると感じていた。
だって、文字を覚えようとしないのとか、女性の人権がないに等しいとか、びっくりしちゃう。
それから、お布団がないことがどうしても許せない。
夜はパジャマに着替えて、羽毛や綿のお布団にくるまって眠りたい。
絶対に、譲れない。
薄い布にくるまって地面に寝転ぶだけじゃ、疲労回復しないよ。
しかも、夜は順番に見張りをしないと危険だ。
異世界転生って、西洋風の文化的な生活をするのがお約束なんじゃないの?
草原を行く商人の一族って、なかなか辛いものがあるんですけど。
前世の記憶がなければ、そういうものかと思って生きていけるのだろうが、中途半端で辛い。
そんな葛藤を抱えつつ、今日もダチョウのような二足歩行のダチュパに乗り、草原を走り抜ける。
今日は宿場町に入る予定だ。
宿の食事と寝床。
それだけでうきうきと心が弾む。
兄が走っているダチュパから腰を上げ、目の上に手をかざして遠くを見ている。
「父さん。盗賊かもしれない」
「なんだと? 警戒態勢を取れ!」
父は太い声で号令をかけた。




