15.休暇の話
水と寝床を確保し、食料も日々調達できるようになった。
次は、自分の身を守る手段を手に入れたい。
十歳の身体は成長している最中だ。筋肉も発達していない。
剣や槍の腕を磨くより、スリングで石をぶつけるのがいいだろう。
そうすると、ちょうどいい石が要る。
「歩いているとつまずいたりして、ごろごろ転がってるもんだと思ってたけど。欲しくて探すと、見つからないね」
ようやく十五個の石を揃えた。
これ以上探すよりも、投擲の練習を始めた方がいいだろうか。
ノアは幹が太い、大きな木を探した。細い木だと、外れたときに石を拾いに行くのが大変だ。
けれど大きな木の下では、その木陰で肉食獣たちが休んでいる。
「練習させてね。当たったらごめん」
ノアはそう話しかけた。ほんの少しギフトを使って、襲われないようにするのを忘れない。
くあーとあくびをして、寝返りを打つもの。のそりと立ち上がり、少し距離を開けるものと、反応は様々だ。
とりあえず、食料として認識されなければよし。
いつも一緒に行動している三頭は、離れたところで待機していた。
ダチョウのようなミューや水牛のワギューは、肉食獣に近付けない。
「今日は休暇ってことで、みんな自分の好きなことをしてすごしなよ」
先ほどノアがそう提案したら、三頭にキョトンとされた。
『好きなことって?』
代表してヒューイが訊き返す。
「遊ぶとか、冒険するとか、美味しい物を探しに行くとか? 私と一緒にいるからできなくて、我慢していること」
前世の感覚で、働きっぱなしはよくないと思ったのだ。
ノアを主人として、みんなよく働いてくれる。休暇は必要だろう。ブラックな労働環境は異世界でも良くないと思う。
鳥のヒューイは首をかしげた。
『好きなことをしていいなら、ノアのそばにいるけど』
「それは休暇にならないんじゃない?」
『どうして? 僕はノアといるのが好きだよ。それにときどき別行動して、好きにしてるし』
ミューは長い首をゆらゆらと揺らしている。
『休暇って、ノアがあたしの背中に乗らない日?』
「まあ、そういうことかな?」
『それって、立ち上がれないほど疲れた次の日か、明日からすっごく大変になるっていうことよね』
ミューは顔をしかめている。休む前後は、いつもより働く大変な日という認識のようだ。
「あー、そういう感じか……」
ミューは物心ついたときから荷物運びの仕事をしていて、それ以外の世界を知らないのだ。
「思いっきり、自由に走るとか?」
『それは食べられちゃいそうで、全力で逃げるときの話?』
少し前に、盗賊に襲われたのを思い出した。
「ミューは走るのが好きじゃないのか……」
『ノアは歩くのが好き?』
「え……? 考えたこともないわ」
なんだか哲学的な話になってきた?
『休暇って、新しいことをやること?』
ワギューは、一生懸命に考えてくれたようだ。
「それもいいね。ワクワクすることをやるの」
『いつもと違うことをするって、水場を奪われたり、逃げなきゃいけないときなんだよね。ワクワクよりハラハラかも』
「いつもの日常が尊いってやつか」
余暇を楽しむって、衣食住が満たされた上での贅沢なんだ。
「もしかして、私だけが休暇を必要としているのかな」
三頭の誰とも感覚を共有できないまま、ノアは幅広の帯に石を載せて、ぶんぶんと振り回した。
石は木の幹まで届かず、ぼすっと砂埃を巻き上げ、乾いた大地に落ちた。




