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ノアの鳥船 ~転生少女に世界を救えって、むちゃくちゃです  作者: 紡里


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13/16

13.常識の違い

 ヒューイが火打ち石を持って戻って来た。

「わあ。これがあるとすっごく便利。ありがとう!」

 ノアは久しぶりに明るい声を出した。


『ノアの近くで、いろいろと見てきたからね』

 ヒューイは胸を張って答えた。

 ちらりとミューとワギューに視線をやるものだから、二頭は挑発されたと感じたらしい。


『あたしは、もっといい物を探し出すんだからぁ!』

 ミューは首を伸ばして宣言した。


『僕はミューでも運べない大きな物を見つけ出すぞ』

 勇ましいワギューの声が聞こえる。


 ノアは座り直して、仲間が張り切ってくれる姿を眺めた。

 自分だけ、寝転んでなんていられない。


 ギフトをたくさん使うと、あのチャラい神様が出てくるらしい。

 できるだけ使いたくない。


 長期的な目標はなんだろう。

 ――生活基盤を整えて、身の安全を確保して、仲間たちと平和に暮らす。


 そういう目標で、いいのだろうか。

 転生するときに神とやり取りをして、何か使命を与えられたような気がする。

 ギフトも三つくらいもらったような……。


 命が危険に晒されても助けてくれなかった神のために働く? なんだか、嫌だな。



 そうこうしているうちに、いくつもの品物が運ばれてきた。

 短剣。

 水筒や木の器。


 へこんでしまったが、金属の鍋もあった。

「これでお湯を沸かせる。嬉しい」

 そう言ったら、ミューが嬉しそうに羽をぷるぷると震わせた。前世のダチョウのように、飛ぶことができない小さな翼だ。


 ワギューがテントを張るときの布を引きずってきた。

「こんなのまであった? ありがとう」


 これを積んでいたダチュパが殺されて、回収できなかったのだろう。

 ミューの様子をうかがったが、一緒に行動していたダチュパの死に、動揺しているようには見えない。



 真面目に拾ってきてくれる三頭には言えない。


 亡くなった人の物を使うことに、忌避感があるなんて。それは前世で、工業化が進んだから新品ばかり使える環境にいたせいだ。

 時代劇に古物商、質屋や貸し物屋が出てくるくらい、使い回すのは普通のことだったはず。


 それから、対価を払わずに物を得るということに、抵抗感がある。

 棚ぼたと喜べない。

 所有権があって、遺族に遺品を届けるのが美談として語られる。

 こっそり懐に入れるのは泥棒じゃないかと、良心がうずくのだ。


 亡くなったから好きにしていいなんて、思えない……。


 これはお行儀のいい、日本の道徳教育だ。

 治安が良く、物を落としても戻ってくる。ルールを守って、譲り合う理性的な社会。

 親が子を守るのは当たり前という世界。

 戻りたい。帰りたい。


 ノアは、大声で泣き始めた。

 あれは天国のような環境だったのだ。

 当たり前ではなかった。


 ……もう、取り戻す術もない。


 だったら、前世の記憶を消して!

 野蛮な社会に適応できる、レベルの低い常識に馴染ませて。

 こんなの苦しいだけだ。


 ノアの、誰にも理解してもらえない嘆きは涙となってしたたり落ち、乾いたサバンナに吸収された。

 その小さな染みでさえ、すぐに乾いて消えていく。



 三頭には、ノアがなぜ泣いているのかわからない。

 もっと喜んでもらえる物を探そうと、いっそう張り切るのだった。


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