13.常識の違い
ヒューイが火打ち石を持って戻って来た。
「わあ。これがあるとすっごく便利。ありがとう!」
ノアは久しぶりに明るい声を出した。
『ノアの近くで、いろいろと見てきたからね』
ヒューイは胸を張って答えた。
ちらりとミューとワギューに視線をやるものだから、二頭は挑発されたと感じたらしい。
『あたしは、もっといい物を探し出すんだからぁ!』
ミューは首を伸ばして宣言した。
『僕はミューでも運べない大きな物を見つけ出すぞ』
勇ましいワギューの声が聞こえる。
ノアは座り直して、仲間が張り切ってくれる姿を眺めた。
自分だけ、寝転んでなんていられない。
ギフトをたくさん使うと、あのチャラい神様が出てくるらしい。
できるだけ使いたくない。
長期的な目標はなんだろう。
――生活基盤を整えて、身の安全を確保して、仲間たちと平和に暮らす。
そういう目標で、いいのだろうか。
転生するときに神とやり取りをして、何か使命を与えられたような気がする。
ギフトも三つくらいもらったような……。
命が危険に晒されても助けてくれなかった神のために働く? なんだか、嫌だな。
そうこうしているうちに、いくつもの品物が運ばれてきた。
短剣。
水筒や木の器。
へこんでしまったが、金属の鍋もあった。
「これでお湯を沸かせる。嬉しい」
そう言ったら、ミューが嬉しそうに羽をぷるぷると震わせた。前世のダチョウのように、飛ぶことができない小さな翼だ。
ワギューがテントを張るときの布を引きずってきた。
「こんなのまであった? ありがとう」
これを積んでいたダチュパが殺されて、回収できなかったのだろう。
ミューの様子をうかがったが、一緒に行動していたダチュパの死に、動揺しているようには見えない。
真面目に拾ってきてくれる三頭には言えない。
亡くなった人の物を使うことに、忌避感があるなんて。それは前世で、工業化が進んだから新品ばかり使える環境にいたせいだ。
時代劇に古物商、質屋や貸し物屋が出てくるくらい、使い回すのは普通のことだったはず。
それから、対価を払わずに物を得るということに、抵抗感がある。
棚ぼたと喜べない。
所有権があって、遺族に遺品を届けるのが美談として語られる。
こっそり懐に入れるのは泥棒じゃないかと、良心がうずくのだ。
亡くなったから好きにしていいなんて、思えない……。
これはお行儀のいい、日本の道徳教育だ。
治安が良く、物を落としても戻ってくる。ルールを守って、譲り合う理性的な社会。
親が子を守るのは当たり前という世界。
戻りたい。帰りたい。
ノアは、大声で泣き始めた。
あれは天国のような環境だったのだ。
当たり前ではなかった。
……もう、取り戻す術もない。
だったら、前世の記憶を消して!
野蛮な社会に適応できる、レベルの低い常識に馴染ませて。
こんなの苦しいだけだ。
ノアの、誰にも理解してもらえない嘆きは涙となってしたたり落ち、乾いたサバンナに吸収された。
その小さな染みでさえ、すぐに乾いて消えていく。
三頭には、ノアがなぜ泣いているのかわからない。
もっと喜んでもらえる物を探そうと、いっそう張り切るのだった。




