12.もう今日は寝る
嘔吐と死に関する描写が出てきます。
苦手な方は、ご注意ください。
携帯食と果実を食べた。
火を焚くのは大変だし、暗くなってから煙を目当てに盗賊が来るかもしれない。
荷物の中から薄い毛布を引っ張り出して、身体に巻き付ける。
神様からもらうギフトで、【コンビニ】とか【通販】とかすごくいいよね。思いついた人は天才だと思う。
【キャンピングカー】もいい。水も安全も確保できる。
ミューとワギューに囲まれた。ヒューイは木の上で寝るようだ。
『眠れそう?』
ミューは、ノアの環境が変わったことを知っている。
温かいスープや夜の冷え込みを和らげる焚き火。
そんなものがどれほど人間の心を和らげるか、知っているのだ。
「う~ん。頑張ってみるよ」
ノアはそう答えた。
疲れ果てていて眠れるかもしれない。
でも、神経が張り詰めていて眠れないかもしれない。
足湯とか身体を温めるだけでも眠りやすくなるんだけどな。
前世では、フットバスを持っていた。適温をキープするものや泡がぶくぶく出るものもあった。
寒い冬だけでなく、冷房で冷えたときにも重宝した。
――そんなことを懐かしく思い出す。
ミューのふわふわの毛とワギューの体温で、いつの間にか眠りについた。
眩しい朝日で目が覚めた。
携帯食も残り少ない。
意を決して、昨日諦めた遺留品漁りに行くことにする。
ミューの背中に付けていた荷物は、全て下ろして木の下にまとめた。
身軽になったミューの背中に乗り、襲われた現場に向かう。
ヒューイが先導してくれる。ワギューが後ろをついてきた。
『ノア。無理そうだったら、我慢しなくていいよ』
「……そんなにひどい状態なの?」
『まあ、踏み潰されてるからね』
「行くだけ無駄かな?」
『散らばってる荷物があるから、何かしら拾えるだろうけど』
視界に入ってきた。
胃がぎゅうっと締め付けられる。
うっかりしていた。前世で言うところの、事件現場じゃないか。
ノアは口元を押さえ、ミューから飛び降りる。
堪えきれずに吐いた。
貴重なご飯を吐くなんて……頭の中で、そんなことを考えてしまう。
現実を拒絶するように、全てを吐き出してなかったことにしたいような感覚。
涙が出る。えずきが止まらない。
居場所がないと思っていたけど、家族という群れの中にいるだけで、守られていたんだ。
『僕たちが使えそうなものを集めてくればいいんじゃない?』
ヒューイがそう言い出した。
ノアは声を出せないので、うなずいた。
ヒューイが飛び立つ羽の音、二足歩行のミューと四つ足地のワギューが枯れ草を踏んでいく足音がノアの耳に入った。
しばらくしても、ノアは四つん這いで動けない状態だった。
口をゆすぎたいが、水筒に口を付けて汚したくない。胃酸のツンとした臭いがまとわりついて、不快だ。
吐きすぎたせいか、目眩がしている。
意識を集中できないため、【製塩】のギフトで水を作るのもできそうになかった。
正しい使い方ではなく、力業で水をひねり出すのは大変なのだ。
仕方なく口元を手の甲で拭い、水筒の水を手の平に溜めて口をゆすいだ。
ぺっと吐いた水が、地面に染みを作る。
「む、無力……」
自立を諦めて、家族がいるであろう街を目指すか。
今なら、まだそんな選択肢がある。
ノアは大地に寝転んだ。
まだ朝方だというのに、力強い陽ざし。
腕を顔の上に置いて影を作り、ノアは考えた。




