10.家族の考え
家族の中に自分の居場所がないと感じていた。
いざとなったら、囮として切り捨てられたことで傷ついた。
だから、家族と縁を切って自活しようと考えている。
だけど、もし、後悔して助けに来てくれたなら……?
この先、一人で食料を確保し、洗濯をし、夜も一人で眠る。宿に入れなければ、お風呂にも入れない。
そんな不安がないわけではないのだ。
「……様子を見たいわ。ヒューイ。上空から会話を拾える?」
『了解』
ヒューイが家族たちの方へ向かう。
鳴き声で、他の鳥も呼んだようだ。
――屍肉を食べる鳥が反応している。それに釣られて、四つ足の動物も集まってくるだろう。
ノアは三頭の水牛の影に隠れることにした。
『僕がしっかり隠してあげるからね』
ワギューが弾んだ声で、言ってきた。
ノアにとっては人生の分岐点だが、ワギューにとっては楽しいイベントのようだ。
「……うん。頼りにしてるわ」
注目の一団は、ノアと盗賊たちが争った場所に近づいた。
ヒューイもその辺りを旋回している。
屍肉を食べる鳥が、パッと飛び立った。
つまり、盗賊たちの亡骸をいただいていたのだろう。
ノアは盗賊たちが死んでいる事実を突きつけられ、吐き気に襲われた。
「う、うぐっ……」
こんなところで吐いてはいけない。
必死に、喉の内側を絞めて耐えた。
『素通りしていいんですか。次男の無事を確認するのが先だ』
ヒューイの声がする。
誰がしゃべっているかはわからないが、素通りすると答えたのは父か長兄かのどちらかだろう。
家族の中の優先順位は兄の方が上。
……知っていた、そんなことは。
ノアは水牛たちの隙間から、目をこらして一団を見ていた。
彼らがダチュパから降りたところに、次兄たちがいるのだろう。
ぐったりとした人を、背中にロープでくくりつけている。
この距離では生死不明だが、連れ帰るのだ。
風が舞った。
ノアの目に埃が入る。
「……痛い」
涙がこぼれた。
平和でも豊かでもないこの世界。
生き延びるために優先順位をつけるのは仕方ない。そう思おうとしている。
病人より、健康な人。
女性は守るけれど、見捨てることもある。家畜のように財産として扱われることもある。
未開の、野蛮な文明。
前世の善良さを求める価値観では庇護されるべき存在が、平気で踏みにじられる。
弱い者を優先的に守ろうなんて、考えはない。
苦しい。
諦めている女性たちに腹が立つこともあった。みんなで抵抗して、待遇改善を訴えようと。
だけど――狭い世界、家族の中に囲い込まれていると、別の価値観に触れる機会がない。
本を読めなければ、他の世界にふれる手段はない。
その本すら、男性たちが手に入れて、女性に与えてくれればという話だ。
そんな世界に自分を合わせる? 無理だ。
前世の倫理観を捨てて、この残酷な世界に迎合したいとは思わない。
ならば、どうする?
適度な距離を置いて、自分の世界を作るしかない。
動物たちと、新しい暮らしを始めるのだ。
ノアは涙を拭った。




