第四話 前編 ダルタニアン騎士学校への帰還
なんとか長旅を終えて騎士学校へ帰って来たアルジェ一行は、ルゼリオを病院に送り届けた後、担任であるサライヤに帰還の挨拶をしに来ていた。放課後で生徒たちの姿はなく、教員室に居るのは帰り支度をする教師達だけ。そんな中で注目を浴びないわけもなく、サライヤは無数の視線に晒されて頬をヒクヒクと引きつらせていた。
しかし、そんなこともお構いなしに、アルジェは大きな声で挨拶をする。
「ただいま戻りました」
頭を下げるアルジェの横で、彼女を挟むように立っていたサシャとミネルバも、渋々と言った感じでお辞儀をしている。その後ろでは、フルーレが自分は関係ないような顔で遠くを見ていた。
思わずサライヤは握り拳に力を込めて、殴りたくなる衝動を必死にこらえる。
「ふぅ……お帰りと言いたいところですが、想定の倍時間がかかった理由を教えてもらえるかしら?」
出来る限り冷静に話そうと思っているサライヤだが、眉間に寄せた皴は深く刻まれており、今更消すことが出来ない。なにせ、出て行ったきり帰ってくる気配のない生徒の事で、周りの教師達からチクチクと厭味を言われ続けていたからだ。
今も帰り支度をしているふりをして耳をそばだてている教師が何人もいる。ここでのアルジェ達の返答次第では、ますますサライヤは厭味のオンパレードを聞かされることになるだろう。
しかし、彼女は分かっていなかった。自分の教え子が想像を絶するトラブルメーカーであることを。
一歩踏み出したアルジェは、背筋をピンと伸ばしてハキハキと声を発した。
「先ずは、盗賊に襲われていた兄妹を助けました」
「盗賊?!」
「はい。それで、出会った子達のお父様がロイスさんと言う商人の方です」
「……ロイスって、あの今飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大している商人の?」
「それは分かりかねますが、その方から護衛をお願いされまして」
「護衛……」
「それで、途中もう一度戦闘があったのですが」
「アルジェさん。ちょっとお水を飲むから待ってくれるかしら?」
サライヤは、テーブルの上にあった水をゴクゴクと飲み干すと、大きく息を吐いた。
「なんとなく大変だったのは分かったわ」
「ありがとうございます」
「分かっただけで、許したわけではないの。だからお礼は言わないで」
「申し訳ございません」
淡々と会話を重ねるアルジェと、すっかり疲れ切ってしまったサライヤの対比がひど過ぎる。どんな状況でも隠し切れない美しさが滲み出る元王太子妃の前で、顔面蒼白になった女性教諭は実年齢より十歳以上年を取ったように見えた。
最初は上げ足を取って楽しもうとしていた他の教員達ですら、サライヤに同情が隠せなくなりオロオロとし始める始末。
そして、早く帰りたいミネルバとサシャが落ち着きなく手足を動かし、我関せずのフルーレは遠くを見たまま。早々カオスと化した教員室からは、誰一人出ていこうとしなかった。




