第三話 後編 再び幌馬車に揺られる元王太子妃
ボロボロの幌馬車が小さな町に辿り着いたのは、既に日が暮れた後だった。古びた宿屋の主人は突然来た訳ありそうな旅人に警戒心を抱いたようだが、ルゼリオが出した金貨二枚で口をつぐんだ。
「部屋にベッドは二つ、空き部屋は、二部屋しかない。一人は床に寝てくれ。それでいいなら、泊まればいいさ」
客相手とも思えない口ぶりだが、今は文句を言っている場合ではない。フルーレがルゼリオを背中に背負い一部屋に入っていくと、ミネルバはサシャとアルジェと一緒にもう一つの部屋へと入った。
あまり綺麗ではないシーツだったが、外で寝るよりはマシ。アルジェとサシャが率先してベッドを動かそうとしたが、見た目以上に重くてなかなか動かなかった。
いつもなら腕力自慢のミネルバがさっさと移動させてくれるのに、彼女は未だにドアの前でぼ~っと立っている。心ここにあらずと言った感じだ。
サシャはパンパンと手を二回たたいてミネルバの意識を自分に向けると、
「ほら、ベッドをくっつけるよ」
と声を掛けた。その優しい声音に、ミネルバは下ばかり向いていた顔を上げる。
「あ……ごめん」
一瞬何を言われているのか分からなかったミネルバだが、自分に微笑みを向けるサシャとアルジェにハッと我に返った。どんな時も、いつもと変わらず接してくれる親友達は、自分の足でミネルバが立ち上がるまでいつまでも待ってくれるのだ。無理にああしろこうしろとアドバイスするわけでのなく、ただ静かに寄り添ってくれている。
しかし、ミネルバは、いつまでも暗い顔をしている場合ではない事に気付いた。父親は生きているし、死ぬような男でもない。時間はかかるだろうが、再びS級冒険者として返り咲くはずだ。
パンパン
ミネルバが気合を入れるために思い切り両手で自分の顔を挟むように叩くと、頬が一気に赤く染まった。それに相まって、彼女の目に生気が戻ってくる。
「ごめん!ありがとう!」
ミネルバは大きな声で返事をすると、ベッド際へと大股で近づいた。そして、アルジェとサシャの間に陣取ると、グイッとベッドを押す。
先ほどまでびくともしなかったベッドは、いとも簡単に動き二つのベッドがピタリと並んだ。キングサイズとまではいかないが、なんとか三人で並んで眠れそうなスペースは確保できた。
ただ、残念ながら、宿に風呂など完備されているはずもなく、シャワーすら浴びられずに横になることになる。
「サシャ、お前、くっせ~な」
「ミネルバこそ」
「あら、皆臭いわよ」
「アルジェに言われちゃ、しかたねーな!」
十四歳の少女らしくキャァキャァと燥ぎながらベッドに横たわると、三人は、長旅の疲れでアッと今に眠りに落ちていく。
しかし、その表情は、とてもリラックスしていて、夢の中でも三人で楽しく過ごしているかのようだった。




