第二話 後編 初恋が元王太子妃の青年
「お前さ、結構不憫な奴だったんだな」
「君に同情されるのは、ちょっと腹立たしいな」
「泣きたかったら、泣いていいぞ」
「上から目線で慰めようとするの、止めてくれるだろうか?物凄く、ムカつく」
いつもの調子を取り戻したフルーレに、ミネルバ自身も落ち着きを取り戻していく。困った時は、頼れる仲間が傍にいる。今回の旅は、学校内で終わる繋がりではなく、永遠に続く友情を更に強固にしたのだろう。二人は視線を合わすと、気まずそうに笑った。
自分の弱い部分を見られて、もう、これ以上格好悪いことは無いと思ったのだろう。全てを見せてしまえば、虚勢を張ることも、見栄を保とうとすることも要らなくなる。
ただのミネルバと、ただのフルーレ。それだけで、良いのだ。
「ミネルバ、フルーレ、軽食を持ってきたわ」
丁度幌馬車まで戻って来たアルジェは、慌てて背筋を伸ばすミネルバとフルーレに首を傾げる。
「何かあった?」
「いや、なんでもねぇ。ったく、腹が減って死にそうだ」
「ふふ、これをどうぞ。パンに野菜やハムを挟んでくださったのよ」
嬉しそうに袋を開けてのぞき込むアルジェの横顔は、年相応のあずなさが見て取れる。
フルーレは、そんな表情をアルジェが自然と見せてくれるようになったことで今は我慢しようと思った。
そして、自分が傍にいることが当たり前になって、必要な時に頼ってもらえる存在になることを目標に決めた。
――まだまだ、時間は沢山あるんだ。焦ることは無い。
空回っていた自分に気付き、フルーレは、やっと肩の力を抜くことが出来た。
それが、ミネルバの父親からの助言のお陰だと考えるのは、なんか癪だった。あくまでも、自分で導き出した選択だと思い込むことにする。
「アルジェ、僕の分もあるかな?」
さっきまでのお通夜のような雰囲気とは打って変わって、いつもと同じ何を考えているのか分からないような笑顔で手を出してくるフルーレに、アルジェが小さく息を吐いた。それは、安堵の溜息なのだろう。
これから先も、多分共に学び、共に戦う相手とギクシャクするのは正直気が滅入るし、色んな意味でポテンシャルが半減する。
「もちろんよ。はい、どうぞ」
「ありがとう、アルジェ」
勝手に呼び捨てにしだしたフルーレに、最初慣れなかったアルジェが自然と笑みを返した。このことだけでも、ロッシーニ公爵家の父や兄が見たら驚くことだろう。
何故なら、彼女は元夫であるロイドには、一度も微笑んだことなどなかったのだから。




