第二話 中編 初恋が元王太子妃の青年
「親父とお袋って、そんなんだったの?」
ミネルバは、少しショックな顔をしていた。確かに記憶に残る母親は、常に物静かで声を荒立てるような人ではなかった。アルジェと同じ剣を使い、凛とした美しさを漂わせていたところは類似点とも言える。
しかし、ルゼリオを見る視線は温かく、良く二人で手を繋いでいた。それを羨ましそうに見ていると、いつも真ん中に入れてくれたのだ。
「フルーレ、覚えておけ。諦めたら、そこで終わりだ」
父親の言い分も分かるが、ミネルバは、好きでもない男に追い回される自分を想像してゾッとした。そして、きっと母親も同じ気持ちだったのではないかと想像する。
「お袋に、ちょっと同情するな」
「ミネルバ、それは違うぞ。本当に嫌だったら、無抵抗な俺なんか一刀両断で切り捨てられていた」
「そんなもんかな?」
「あぁ、間違いない」
「侍ることを許されるってことは、それだけ、重要なことなんだぞ」
白い歯を見せて笑うルゼリオに、フルーレは正直嫌な気分になった。
――貴方と同じにしないで欲しい。
どこからどう見ても同じ状況なのだが、フルーレは、もっとアルジェとは近しい存在になっていると思っている。何故なら、彼女にとって彼や唯一全力を出せるライバルでもあるのだから。そんな気持ちが表情に表れていた。
それが面白かったルゼリオが、
「そう変わらないだろ?」
と煽ると、フルーレは顔を真っ赤にして、
「全然違います」
と、噛みつくように反論した。普段感情が見えにくい彼にしては珍しい。
「ははっ、若いな」
ルゼリオは明るく笑うと、フルーレはよほど悔しかったのか口を真一文字に閉じて床を睨みつけた。どうやら、完全に怒らせてしまったようだ。
しかし、さっきの腐りかけた魚みたいな目をしているよりずっといい。
「まぁ、健闘を祈る」
それだけ言うと、ルゼリオは再び目を閉じた。口だけは元気でも、骨折しているのだ。鈍い痛みが四六時中襲い、あまり良く眠れていない。本当は、こんな体で馬車移動などするべきではないのは分かっていた。
しかし、ルゼリオは、ミネルバを友と引き離すことは嫌だった。ギルド長のガンドルフには、既に入院する病院を手配してもらっている。
「親父?寝たのか?」
ミネルバが声を掛けたが、反応はない。体が限界にきて、気を失っているのだ。
「早く、帰らないと……」
ミネルバは、青い顔をして唇を噛んだ。こんなことなら、学校を辞めてから父親に会いに行けばよかったと後悔する。
「あのさ、ミネルバ」
「なんだよ」
「僕には家族愛とか良く分からないけど、きっと、君は彼に愛されているんだね」
「はぁ?」
「少し、羨ましいよ」
娘の為に自分の命を削るような選択をするルゼリオは、正直賢いとは言えないのだろう。
しかし、フルーレは、子供に対してこれ程真剣に向き合ってくれる親が世の中に居ることを初めて知った。




