第二話 前編 初恋が元王太子妃の青年
「辛気臭くて、こっちが腐っちまいそうだ」
ルゼリオは痛みを我慢しながら薄っすらと目を開け、荷台に寝転がったままフルーレを見上げた。下から見上げる青年は、細い目を更に細めていて泣いているのか笑っているか分からない。ただ、まき散らす雰囲気が地の底に突き落とされた人間のように暗く湿気ている為、折角娘のお陰で治りが良くなった傷が妙に疼く。
「フルーレだったか?」
「あ、はい」
「お前さん、失恋でもしたのか?」
「それは、毎日しています」
「あぁ……なるほど」
身近にいる女性に恋をして、毎日フラれた経験はルゼリオにもある。冒険者パーティーを組んでいた時の紅一点。ミネルバの母親ルーラだ。
彼女がどのような家の出身なのか、誰も知らない。
しかし、ある日彗星のように突然現れ、討伐依頼を一人でこなすようになった。危険を顧みず敵に突っ込んでいく姿は、まるで生き急いでいるように見えた。
一目で恋して周りをうろつき付き合ってくれと言うルゼリオに、ルーラは無言のまま冷たい視線を向けてきた。ただ、それはそれほどダメージを受けることではなかった。
逆に一番辛かったのは、トレバー・ダルタニアンを含めた冒険者パーティーを組んだ時だ。多少仲良くなれたと思っていたルゼリオが、不用意に彼女の過去を聞こうとした。
すると、次の日から彼女は、全くルゼリオと話さなくなったのだ。
「お前は、どうしてそう、デリカシーがないんだ」
そして、結局トレバーに的確なダメ出しをされたことで、カッとなって殴り合いの喧嘩をしてしまった。今思えば、何事も順調に進んでいた人生の中で、初めて思い通りにならなかったことの一つだった。
だから、結論を急いでしまったのだ。彼女に、一秒でも早く自分を好きになって欲しい。一方的にぶつけられる気持ちの、なんとはた迷惑なことだろう。
「お前、本当に、俺に似ているな」
「え?」
「それ、初恋だろう?」
「あ、そう……ですね」
「ははっ、まぁ、実るといいが焦ると自滅するぞ」
ルゼリオは、リベルタ達が食事をもって帰ってくるまでの間、自分のことを話してやった。馬鹿で情けなくて、それでも諦めきれなくて、とうとう相手が音を上げるまで付いて回った懐かしい思い出だった。




