第一話 後編 ダルタニアン騎士学校への帰路と元王太子妃
「こ、こんにちは」
「初めまして。突然の訪問、申し訳ございません」
ソファーから立ち上がって礼儀正しく頭を下げる少女に、老人は益々笑みを深くする。
「さぁ、お座りください。馬は、既に準備させていますからね」
彼の名前は、ストールと言う。長年街道筋で厩舎を商っており数多くの商会が彼の馬に助けられている。各町に設けられた交換所では、元気な馬が今か今かと順番を待っているのだ。
今彼が用意させているのは、その中でも飛び切り元気で体力のある馬だった。何故なら、そのようにロイスが注文を入れていたからだ。
「ロイス様には、常々とても御贔屓にして頂いておりましてな。その方の恩人とあれば、我々にとっても恩人のようなものです」
最近不景気なせいか、盗賊が荷馬車を襲う事件が多発している。その中でも、今回の荷は高価なものを載せていたため、それを未然に防いだ功績は計り知れない。他の商人達の間でも噂になっているらしく、もしアルジェ達が学校を卒業して本格的に護衛を仕事にするならば、その依頼は引く手あまたになるとストールは笑って言った。
「それは……まぁ、嬉しいかな」
「そうね。いざとなったら、生きる道があるというのは嬉しいわね」
笑い合う二人を見てストールは、ほぉと感嘆の溜息をついた。
どう見ても高貴な少女が、言葉遣いすらままならない平民の少女と自然に交わっている。何処にも居丈高な雰囲気はないのに、身分を明かされなくても平伏したくなるような気品があった。
「宜しければ、軽食を用意しましたので食べていかれませんか?」
「それでしたら、馬車で頂きます。同行者が三人、待っていますので」
「いえいえ、それでしたら、皆様もこちらへ」
「一人怪我人がおりまして、動くのも大変ですから。お気遣いいただいたのに、申し訳ございません」
丁重に辞退されては、ストールもこれ以上何も言えない。
「それでは、馬車の方へお持ちいたしましょう」
従業員に指示し、食べやすいようパンに具材を挟んだものと容器に入れた飲み物等を運ばせた後、ストールは自ら厩舎の方へと足を運んだ。
そして、どう頑張っても馬糞の匂いが漂う場所で、楽しそうに出された食事をアルジェが食べている光景に再び驚く。
「これは、これは……」
商売柄、貴族も相手にするストールだが、あまり気持ちの良い相手に出会ったことがない。
しかし、あの少女は、まるで最初からそういった生活をしていたかのように自然になじんでいる。
「ロイス様が書かれていた通り、今後が楽しみな人材ですな」
ストールは、別れ際に自分の意思で多くの食べ物をアルジェ達に持たせた。全ては、ロイスの指示だと言って。
「又、是非お越しください。その時は、豪華な食事を準備しておきますので」
「ありがとうございます。必ず、寄らせていただきます」
次の長期休暇でリペアと工房を訪れる旅をする予定のアルジェは、ストールと知り合いになれたことを心強く思った。




