第四十九話 中編 ダルタニアン騎士学校への帰路と元王太子妃
「もう少しで次の町だから。そこへ行けば、ロイスさんの伝手で馬を交換してもらえる」
サシャが胸のポケットに入れているのは、ロイスからもらった紹介状だ。彼の商会が契約している厩舎へ行けば、元気な馬と交換してくれるらしい。元々ギルドから借り受けている馬だが、ロイスの商会で移動する際にギルドへ返してくれる約束だ。
これは、護衛をした報酬とは別に、彼らの子供を助けたお礼らしい。確かに、あの時アルジェ達が居なければ、ルイ達が怪我をさせられていた可能性は高い。
別れ際に大泣きした小さな弟子は、アルジェを生涯の師匠と仰ぐと誓いを立ててくれた。嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいのアルジェだったが、くれぐれも基本を忘れずに素振りを頑張る様にと真面目に教えを説いた。
それを照れ隠しだと分かっているミネルバ達は、微笑ましいものを見るような視線を向けてきたが、それが余計アルジェを恥ずかしくした。
そんなことを思い出しながら城門をくぐると、そこは小さいながらも活気の溢れる町だった。道の両側には露店が並び、客引きが声を掛けてくる。何処からともなく漂ってくる肉が焼ける匂いは、アルジェ達の胃袋を大いに刺激した。
しかし、まずは目的を果たさねばと先を急ぐ。そして辿り着いた先で皆は呆然とした。
「ここだと思うんだけど……」
サシャがロイスからの手紙の宛名と看板に書かれた文字を見比べる。
しかし、直ぐに店の扉を開けられないのは、そこが想像以上に大きな店だったからだ。多分、この町一番の店構えと言っていい。どうすればよいのか分からず、困り果てた顔で店を見上げる若者達は、よほど周りの目を引いたのだろう。
「なにか、御用でしょうか?」
エプロンをした気の良さそうな中年女性が声を掛けてきた。どうやら、この店の従業員らしい。
「あ、えっと、ロイスさんから紹介してもらって……」
サシャが手紙を差し出すと、少し驚いた顔をした後、
「どうぞ、中へ」
と丁重に招き入れてくれた。
通されたのは、上顧客しか入れないと思われる豪華な応接間。そこに汗臭く土埃にまみれたサシャとアルジェが座ると、なんとも場違いに思えた。
「いやはや、ロイスさんのご紹介というからには百戦錬磨の商売人かと思っておりましたが、これはこれは、素敵なお嬢様方で驚きを隠せませんな」
腰の曲がった白髪の老人は、先程の中年女性に介助されて部屋に入って来た。その眼差しは柔らかで、人を包み込むような温かさがあった。




