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【第二部開始】アルジェ・ロッシーニ元王太子妃の剣  作者: ジュレヌク
第一章王太子妃編

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第三話ラクロア・ロッシーニ公爵 ~ロッシーニ家の血~

 ベッドに横たわる愛娘の手を、父であるラクロアは、固く握っていた。


 アルジェの血の気の失せた青白い肌は、その肌理の細かさと相まって、白磁器の様に見える。


 ロッシーニ家特有の白に近い銀髪が、より人形のような無機質さをかもし出し、小さく胸が上下していなければ生きていることすら怪しまれただろう。


 今のアルジェに、故郷で走り回っていたお転婆娘の面影は無い。


 彼女が、王宮へ連れ去られた二年前から、ラクロアは、今日まで会うことも許されず、念願の再会がこのような形になったことに腸が煮えくり返っていた。


 それでも娘の為に必死に気持ちを落ち着け、安心させるように微笑みかけた。



「アルジェ、会いたかったよ」


「お・・・と・・さま・・・」



 ラクロアは、震える指先で、アルジェの額に掛かる髪の毛を左右に分けてやった。


 思い出の中にあったふっくらとした頬も小さな手も今は無く、美しい女性としての片鱗を見せ始めていたアルジェ。


 この貴重な成長過程を見守って遣れなかった後悔が重く圧し掛かる。


 アルジェを拉致された時、ロッシーニ家は、王家との全面戦争を覚悟していた。


 領民達も、志願兵に名乗りを上げ、王都へと雪崩れ込む寸前だったのだ。


 しかし、領民の生活を私事で壊すことを良しとしなかったアルジェは、自らしたためた手紙をラクロアの元へ送った。



『私は、大丈夫です。どうか、皆を守ってください』



 たった十歳の娘が、震える手でしたためた手紙を握り締め、父は、泣いた。


 もし仮に、王宮を陥落させたとしても、アルジェが帰ってくることは無い。


 真っ先に殺され、門の前に吊るされるだろう。


 唯一の救いは、幼すぎるアルジェに、女好きのロイドが興味を持っていないことだけだ。


 時間をかけ、隙を見て奪還した後、王家との決別をすれば良いと考えていた。


 しかし、美しく成長したアルジェを見ると、残された時間は少なかったのかもしれない。


 あの王太子から娘を守ってきた『幼さ』は影を潜め、羽化したての蝶のような華やかさがある。


 十二歳とはいえ、いつ襲われ、いつ汚されるかなど、分からない。



「アルジェ、よく耐えてくれた。お前を救ってくれたサモナ医師も、こちらで保護をしている。安心するように」



 想った以上に傷が深かったアルジェの命を繋ぐため、アークの差配で、王家の確認を一切取らずに、この国随一の腕を持つサモナ医師が呼ばれた。


 この老医師は、元々軍医であった性質上、曲がったことが大嫌いな性格だった。


 そして、軍人一家のアルジェにとっては、祖父のような存在でもある。


 サモナは、手術を口実にアルジェを王宮近くの自分の医院へ運ばせた。


 のちのち宮廷医からの抗議もありうるが、彼らに、アルジェを救うだけの腕などない。


 この事で、アルジェは、王宮の外に出ることが出来た。


 今、アルジェが眠る場所は、医院のベッドであり、この屋敷の周りは、近衛隊とロッシーニ家の精鋭部隊で取り囲まれている。



「よか…っ…た」


 

 アルジェの瞳から、涙が溢れた。


 切られた時も、手術の時も、泣き声を上げなかった彼女が、大切な人達の無事に泣いた。

 


「これから、私は、王と話をつけてくる。それまで、もう少し待ってくれ。私達と共に、領地へ帰ろう」



 このような惨事を引き起こした犯人は、既に捕らえられている。


 後は、どうやってアルジェを王太子妃から外し、一人の娘として自領へ連れ戻すのかだけだ。


 王家は、今回のことで、ロッシーニ公爵に借りができた。


 息子を救い、しかも瀕死の重傷を負った少女。


 本来なら、美談にすり替え、今後もアルジェを手元に置きたいのだろうが、ロッシーニ公爵が許すはずもない。


 何処を落とし所にするのか?


 それは、これから行われる会談にかかっている。



「お前さえ戻ってくれば、私達に怖いものは無い」


 

 人質を取られ、抑えつけられていたロッシーニ家の怒りは計り知れない。


 既に、王都にある屋敷は、もぬけの殻だ。


 戦闘員以外は、メイドからコック長、庭師にいたるまで全員領地へ向かっている。


 そして、アルジェを溺愛する歳の離れた四人の兄達は、それぞれが暗躍し、王妃派の切り崩しに掛かっていた。


 元々アルジェという人質ありきで成り立っていた第一王子派の崩壊は早く、貴族の勢力図は、ほぼ第二王子派に塗り替えられたと言って良い。


 

「さぁ、ゆっくり寝なさい」


「はぃ……」



 アルジェは、瞼を閉じた。   


 その口元は、微かに綻び、柔らかな笑みを湛えていた。











 



 


「王との話し合いは、終わった。お前は、もう自由だ」


 


 その言葉に、アルジェが大きく目を開いた。


 


 美しい涙が、ポロポロと流れ落ちる。


 



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