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【第二部開始】アルジェ・ロッシーニ元王太子妃の剣  作者: ジュレヌク
第一章王太子妃編

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第四話 国王マックスウェル・メルクルディ〜愚か者の末路〜

「貴様らは、何をしたか分かっているのか!」



報告を聞いたマックスウェルは、王妃とロイドを前に、荒れ狂っていた。


今日まで、アルジェが王妃に苛め抜かれていたことを知りつつも、何も言わなかった彼が、手当たり次第に物を2人に投げつける。



「アレは、大事な手駒だぞ!調教して、言うことを聞かすならいざ知らず、傷物にした上に奪われるとは、何事だ!」



マックスウェルは、徹底していた。


己のため、国のためなら、多少の犠牲など気にしない。


最大派閥である王妃の一族を正妃に迎えたのも、アルジェを人質同然に王太子妃に迎え、ロイドを王太子に据えたのも、全ては、この国の存続を盤石にするためだ。


それなのに、王妃は、己の自己顕示欲を満たすためだけに、不必要にアルジェを虐待し、ロイドは、己が引き込んだ刺客から逃れるためにアルジェを盾にした。


こんなことが世間に知られれば、他国からも誹りを受け、国民からの反発も計り知れない。



「もういい。王妃を離宮へ。ロイドは、北の塔へ」


「そんな!貴方だって、今まで何も言わなかったではありませんか!」



幽閉と聞き、王妃は、錯乱状態になる。


蝶よ花よと育てられ、王妃になってからは、世界の全てが自分に平伏した。  


思うようにならないことなどなかった彼女が、一人、離宮に閉じ込められる屈辱。


息子が罪人同然に北の塔に幽閉されることなど、気にもしていない。



「私は、悪くありません。この一件は、全てロイドが背負うべきものです!」



腰巾着達との楽しいお茶会からいきなり呼びつけられた王妃は、いつものように、王に対して自分の思ったままのことをそのまま口に出した。



バシン



王妃は、突然目の前で大きな音がして、一瞬呆然としたが、頬が焼けるように熱くなったことで、殴られたのだと気づいた。



「な………なにをするのです……」


「煩い。お前は、もう、用なしだ。正妃から降ろす。側妃を正妃にする手続きを進めよ」



傍に控えていた側近に声をかけ、マックスウェルは、面倒臭そうに命令を下した。



「お前が王妃でいられたのは、お前の派閥が幅を利かせていたからだ。しかし、ロッシーニ公爵が離反すれば、なんの役にも立たない烏合の衆。まだ、側妃のほうの派閥が役に立つ」



マックスウェルには、妻に対する愛情などない。


ただ、使えるか、使えないか。


今の彼にとって、王妃は、お荷物以外のなにものでもない。



「ラクロア・ロッシーニ公爵が、お出でになりました」



その声に、マックスウェルは、顎で王妃を示すと首を横に一振した。



『連れて行け』



声にすら出さない命令は、王妃の心を酷く傷つけた。


王妃という立場に酔っていたのは勿論だが、王を愛していなかったわけではない。


この国の最高権力者たる姿は、彼女の常に最高を求める向上心とともに恋心にも火を付けた。


息子を一人しか儲けられない上に、側妃の息子が優秀だと聞こえてきた時、王妃の中で、何かが壊れたのだろう。


人の感情や善悪など、どうでも良かった。


ただ、マックスウェルと自分の子が、王となることだけが、自分の存在価値を示す手段になっていたのだ。



「あな…た……」



王妃が縋るように差し出した手と哀愁を帯びた視線は、マックスウェルに見られることもなく、数人の者の手で、部屋から引きずり出されていった。


栄華を極めた王妃の姿は、そこには、なかった。


王の傍らには、


「うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、アルジェ、アルジェ、アルジェは、私の妻だ……」


狂ったように呟き続けるロイド。



「コレも連れて行け」



マックスウェルは、半分狂ってしまった息子を物のように捨てた。


北の塔で死ぬまで、彼が、そこから出てくることはないだろう。



「ラクロア・ロッシーニ、王にご挨拶申し上げます」



王妃と王太子がいなくなった王宮に、ラクロアが現れた。

 

多くを発せずとも、体から怒りがにじみ出ておるのが一目で分かる。



「この度は、王妃と王太子がすまぬことを……」


「謝罪は不要にございます。先ずは、今後の話をさせていただきましょう」



この場の主導権は、完全にラクロアのものだった。


今彼が反旗を翻すと言えば、多くの貴族が追随するだろう。


ここは、どんな不利な条件を呑んだとしても、事を収めなければならない。


 

「なにが、望みだ?」


「ロイド殿下と娘の離婚。今後一切、我が家とは関わりを持たぬという誓約書。今回の件で娘の救助に携わった者全てを不問に。王は、退位。次の王は、第二王子に。成人するまでの補佐は、側妃の実家である公爵家が行う………」



端的に、しかし、王が嫌がる条件ばかりを詰め込んだ要望は、既に紙面に記されており、聞いた聞かなかったの問答は出来ない状態にされていた。


手際良く、急所を突いてくる。


軍人のくせに、事務仕事にも明るいのかと、嫌な気分にさせられた。



「これを呑んで王であることすら奪われる私に、どんな利点がある?」



不機嫌にマックスウェルが問えは、



「クーデターは、抑えられるでしょう」



とラクロアが答えた。



「段取りが良すぎる。最初から、計画していたのか?」


「どこの馬鹿が、愛娘を傷物にしてまで政権交代を企てると?それなら、一家総出で他国へ移住したほうがマシです」



ギシリ



怒りで歯を食いしばったラクロア。


今にも彼の腰にある剣が抜かれ、己の首を飛ばしてしまうのではないかと、マックスウェルは思った。 



「……分かった」


     


渋々ではあったが、マックスウェルが要望書に調印したことで、クーデターはギリギリのところで回避された。


夏の離宮に王妃が幽閉されたため、マックスウェルは、冬の離宮に幽閉された。





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