第三十一話 問題児認定された元王太子妃
朝から教員室に来た四人組を前に、サライヤは、こめかみをグリグリ押さえていた。
「冒険者登録……って言ったのかしら?」
「はい」
平然と答えるアルジェに、罪悪感の欠片も見受けられない。
その悪びれた様子のなさに、周りの教師達も、サライヤに同情の視線を向けていた。
これは、完全に、何も悪いことをしたと思っていない人間の受け答えだ。
入学してから二年。
毎月何かをしでかす四人に、担任教師である彼女が頭を悩ませているのを彼らは何度も見てきた。
どうやら、今回も破天荒な行動で、サライヤをどん底気分に突き落としたようだ。
「なにか、不都合でしたでしょうか?」
「不都合とかじゃないのよ。でも、前例がないわ」
十四歳の貴族が、荒くれ者の集まると噂のギルドで、冒険者登録を終えて満面の笑顔を浮かべるなど、誰が予想しただろう。
サライヤが同じ歳の頃は、冒険者を街で見かけただけでも震え上がったものだった。
それなのに、困惑する担任教師に向かって、アルジェは淡々と、冒険者登録とは何なのかを説明する。
「まず、義務は、有事の際に戦力として力を貸すことです。この有事とは、戦争などではなく、今回のような獣狩り等の補助要員として協力することだそうです。あと、責任は、素人には手を出さないこと。利点としては、国外逃亡に力を貸してくれるとのことでした」
元王太子妃の口から出る、『国外逃亡
』というワードのなんと強烈なことか。
しかも、一般人を『素人』呼び。
どこの無頼漢かと問いたくなるのをグッと我慢し、サライヤは、会話を続ける。
「アルジェさん。貴女は、一体何を目指しているのかしら?」
「剣聖ですが?」
ここで近衛騎士と答えないところが、アルジェらしい。
横で聞いている三人も、ウンウンと訳知り顔で頷いているが、正直、このダルタニアン騎士学校の存在意義すら覆す一言である。
ここを目指す生徒達は、まず王宮の近衛騎士を希望するものが多い。
王族の警護は、いわゆる花形だ。
次に、軍部門では第一部隊が身分も高く、実際の戦などでは王を守る役目を果たす。
第二、第三と行くに従い厳しい現場へと配属されることになり、第四部隊となれば騎士学校卒業者よりも叩き上げの平民が多くなる。
それでも給料が良いため、皆、血眼になってそこを目指すのだ。
決して、剣を極めるためだけに、騎士学校に通う者などいない。
再びこめかみを押さえるサライヤに、ミネルバが笑い出す。
「ははは、先生、アルジェは普通じゃないんだから、諦めなよ」
「貴女も十分、普通ではないのですよ?」
「普通、普通って、普通がそんなにいいのかよ?」
ミネルバの問いに、サライヤは言葉に詰まる。
教師として、全ての生徒に平等であろうとしてきたが、それは言い方を帰れば誰にも情を抱いていないということだ。
自分の判断基準に照らし合わせ、その型にはめようとしていたわけではないが、あまりにも逸脱する彼女達に自制して欲しいと願うことは、成長を止めてしまうということなのかもしれない。
「サライヤ先生、既に冒険者登録も済みました。それを白紙に戻すことは出来ません。僕達が謝って済むなら謝りますが…」
「フルーレ君、心のこもっていない謝罪は必要ないわ」
さっさと話を終らせるためなら、頭を下げることをなんとも思わない公爵令息に謝られたからといって、次も同じことをするのは分かっている。
「先ずは、約束して。勝手にギルドの依頼を受けない」
アルジェ達が暴走しないよう、条件を付け始めたサライヤに、
「え~、それじゃ、登録した意味ないじゃん。儲かると思ったのに」
とサシャが文句をたれた。
どうやら、依頼を受けて金儲けをしようと考えていたらしい。
「今の発言、お義父様のトレバー様にお伝えしておきますね、サシャさん」
「わ!それは止めてください、サライヤ先生。あの人、説教長いんだもん」
うへぇ~といやな顔をするサシャに、アルジェは、
『サシャは、愛されているのね』
と感じた。
サシャは、あまり養い親のことを語らない。
それは、彼女を養子に迎えたトレバー・ダルタニアンが、この学校の総長という微妙な立場だからだろう。
何をしても、義父の七光りのように言われ、サシャ自身いい気持ちはしていない。
出来れば、この学校の最高権力者とは関係のない人間と思ってアルジェ達に付き合ってもらいたいのだろう。
「依頼を受けるなとは言わないわ。許可を取れと言っているの。貴女達は、この学校の生徒なの。貴女達が起こす騒動が、学校の不名誉に繋がることもあることを肝に銘じて」
現在調査中の獣討伐事件も、まだ、解決の糸口が見えていない。
昨日、爆発を起こした人間をやっと捕まえることができたが、皆、金で雇われた無頼漢ばかりで、糸を引いた人間までたどりつけていなかった。
とは言え、この狩りにアルジェ達を放り込んだザッハ侯爵が絡んでいることは想像に難くない。
本当なら『ザッハ侯爵には気をつけろ』名指しで注意を促したい。
ただ、不確定情報で人を貶めることは出来ず、慎重を期して欲しいサライヤは、アルジェ達に、多くを語ることが出来なかった。
サライヤも、学校の名を盾に取るのは不本意だが、アルジェ達の動きを知る為にも学校を通して依頼を受けてもらうしかない。
「分かりました、先生。私達は、ダルタニアン騎士学校に泥を塗るような行為はいたしません」
神妙な面持ちで頭を下げるアルジェだが、既に学校側からは、問題児認定されていた。
なにせ、巷では、新人冒険者を救った彼女達の噂で持ちきりなのだから。
どんどん有名人になっちゃいますね~。もっとやれ。




