第三十話 冒険者登録をした元王太子妃
「俺は、君達に冒険者登録をお勧めしようと思ってな」
ガンドルフの申し出に、アルジェは、思案顔になった。
彼女が望むのは、剣の道を究めること。
その為に、ダルタニアン騎士学校に入学を希望したわけで、冒険者になりたいなど一度も思ったことはない。
しかし、相手が提案してくるからには、何かしら思惑があるのだろうと思考をめぐらす。
「そう険しい顔をしないでくれ。もし、もしもだ、この国から逃げなければならない様なことが起こった場合、全世界規模で支部のある冒険者ギルドは、君達にとって大きな力になるんじゃないのか?」
「そのようなこと、起こるとは思えませんが」
「どうかな?今だって、訳の分からない悪意に晒され、危険なめにあっているだろう?」
「別に、危険と思ったことはありませんが」
「はぁ…、お嬢さん、あの獣の暴走、普通の人間なら死んでいる可能性もあるんだよ?しかも相手は、金と権力を持っているらしい。 念には念を入れて、利用できるものは利用したほうがいいんじゃないか?」
ガンドルフの言い分も分かる。
確かに、今回の件は、異常だと認めざるを得ない。
敵は、アルジェ達が死んでも構わないとばかりに獣をけしかけたのだ。
そこに、悪意があったのは間違いなかった。
今回のようなに、今後も自分だけでなくミネルバ、サシャ、フルーレにも同じく火の粉が降りかかるのであれば、手数は多いほうが良い。
「皆は、どうする?」
アルジェは、隣に座る三人に視線を向けて質問を投げかけた。
「アタイは、八歳の時に、既に登録済みだ」
平然と答えるミネルバに、
「え?ミネルバ、そうなの?私も、登録しておきたいかな。正直、騎士学校卒業した後、貴族と関わって生きて生きたいとは思ってないんだよね~」
とサシャが言い出した。
ミネルバは予想通りといったところだが、サシャの言葉に、アルジェは戸惑った。
「え?サシャ、軍には行かないの?」
「ん~、行ってもいいし、行かなくてもいい。自分が居心地の良いほうを選ぶよ。ただ、アルジェやミネルバと居られるほうを選ぶかな」
卒業後お別れなのかとショックを受けたアルジェは、サシャの答えにホッと息を吐いた。
彼女の中で、もうミネルバとサシャと離れる未来はない。
「僕も、登録しておくよ。このままじゃ、三人が国外に逃げるとき、置いていかれそうだ」
いつも空気扱いされるフルーレは、慌てて両手を挙げてアピールした。
「はぁ?お前、付いて来る気なのかよ?迷惑だよな?アルジェ、サシャ」
「まぁまぁ、ミネルバ、そう言わないの。フルーレが付いていきたい相手は、うちらじゃなくてアルジェだけだから」
虫でも見るような嫌悪感満載のミネルバと、諦め顔のサシャに、フルーレは口をへの字にする。
「そこまで嫌がられる覚え、ないんだけど?」
「分かってねーのかよ。このバーサーカーが!」
アルジェ至上主義のフルーレは、時として、ミネルバやサシャの存在を忘れることがある。
今回の獣狩りにおいても、アルジェを守ろうと大剣を振り回しまくったフルーレの剣先に、ミネルバは、危うく自分が狩られそうになった。
「謝ったじゃないか」
思い出して顔を真っ赤にして起こるミネルバを前にしても、フルーレは平然と言い放つ。
「一度謝ったのに、これ以上、何を僕に望むんだい?」
「そのふてぶてしい態度が気に入らねーんだよ。反省してねーだろ」
「ん~、同じ状況になっても、同じようにしかしないかな」
キョトンと何が悪いんだと言いたげなフルーレの頭をアルジェが殴る。
それすら嬉しそうに甘んじて受ける少年に、ガンドルフは、近所に住む鬼嫁と尻に敷かれた旦那を思い出して苦笑した。
「君達は、仲がいいんだな」
「いえ、騒がしくて申し訳ありません。折角お誘いいただいたので、是非登録をさせていただきます。何か必要なものはあるのでしょうか?」
「あぁ、先ずは、書類に記載をしてもらい、指紋を取らせてもらう。ギルドが管理する銀行口座を開いてもらい、そこに少額でいいから入金してくれ」
「分かりました。皆、ギルドの皆さんにご迷惑をかけないように。いいわね?」
「「「了解」」」
アルジェと言う人間を中心に全員が強く繋がっているメンバーを見て、ガンドルフは、ふと昔組んでいたパーティーメンバーを思い出した。
ミネルバの父ルゼリオと現在ダルタニアン騎士学校の総長を勤めるトレバーも、実は彼の仲間だった。
それ故に、ミネルバを託す先にトレバーを頼った。
ただ、破天荒なルゼリオと生真面目なトレバーの相性は、良いとは言いがたかった。
それをまとめたのが、ミネルバの母でありルゼリオの妻であった女性、ルーラだ。
今でも彼女が病で亡くなったなどと信じられぬほど、強靭な精神と肉体を持った戦士だった。
懐かしさに、涙腺が緩むのを感じたガンドルフは、
「じゃあ、登録用紙を取ってくるな」
と言い残し、部屋を出て行った。
パタン
扉が閉まると、おもむろにサシャが、
「冒険者登録したらさ、一度、休暇に旅してみない?」
と言い出した。
学生なら国境を越える際、様々な申請や親からの許可書等が必要となるが、ギルドカードさえあれば大体の国がフリーパスとなる。
「軍資金も、行く先々で依頼を受けて稼げばいいし!」
サシャの語る夢に、他の三人も目を輝かせた。
「それ、いいわね!」
アルジェが声を上げれば、決まったも当然だった。
新たな刺激が増え、ワクワクが止まらない四人だった。
元王太子妃、気づけば冒険者になっていました。もっと大空の下を旅させたいと思います。
実は、このお話異世界恋愛ではなくローファンタジーでは?とおっしゃて下さった方が居て、とても腑に落ちました。そうだ、私の書きたいアルジェは、恋愛じゃなく冒険をするアルジェだと。なので、昨夜からジャンルを異世界恋愛からローファンタジーへと変更しております。
今後も末永くアルジェ達を愛していただけると嬉しいです。




