第二十八話 舞うように剣を振るう元王太子妃
ドン ドン ドン
再び、森の中に爆発音が響いた。
どうやら敵は、まだまだ攻撃の手を緩めるつもりは無いらしい。
辺りに火薬の爆ぜた臭いが漂い、包囲網が徐々に狭められていく。
ウォ~~~
強襲に追い込まれ、一斉に走り出した獣達の叫び声と地響きのような足音がこちらに向かってくる。
パニック状態に陥っている獣は周りを見る余裕は無く、そこに人間がいようが他の獣がいようが関係ない。
小動物達は、巻き込まれまいと木に登ったり穴に潜ったりして身を守ろうとした。
しかし、若木など一瞬に粉砕され、踏み潰されないように闇雲に走り回るので精一杯だ。
「皆、円陣を組め!」
引率のギルド職員と先輩冒険者数名が、新人達に指示を下した。
自分達の間に彼らを挟み、力量の無いものを守ることにしたようだ。
しかし、これでは一箇所を破られれば全滅になりかねない。
「申し訳ございません。我々は、別行動とさせていただきます!」
アルジェが申し出ると、ここまでの手腕を見てきた引率員達は、深く頷き、
「申し訳ない。頼む」
と頭を下げた。
長年冒険者を続けてきた彼らの目にも、アルジェ達の実力が半端ないものに見えていたのだろう。
兎に角、一匹でも多くの大物をアルジェ達が受け持つことで、新人達の生存率が上がるのだ。
アルジェは、この獣狩りの為に持参してきた己の剣を引き抜いた。
それは、月夜に泣くといわれた「魔剣」。
抜き身は妖しく輝き、血をすすることを喜んでいるように見える。
受け継いだ当初より身長が伸びたアルジェは、以前よりも更に早く、軽く、この剣を振れるようになっていた。
突進してくる大角を突き出した雄鹿を軽やかに避けると、すれ違いざまに首と前脚をスパリと切る。
頚動脈と脚の腱を切断された雄鹿は、前倒しになって倒れた。
即死させずとも、動きを止めさえすればいい。
アルジェの機動力と瞬発力を最も生かせる戦い方だ。
力まず、水のように滑らかに剣を振り抜けば、業物の剣が相手の急所に深い刀傷を負わす。
吹き出す血飛沫すらフワリと避け、汚れることなく次に向かって走り抜ける姿は、まるで舞姫のよう。
このような状況でなければ、皆が目を見張り、その美しさにため息を漏らしたことだろう。
しかし、この戦いは、始まったばかり。
次から次へと獣が雑木林から現れては、駆け抜けていく。
その中でも一際大きな猪が、倒れた鹿を踏み台にして飛び上がると鼓膜を破る程のけたたましさで鳴いた。
ギョエーーー
それは、まるで絵本に出てくるドラゴンの咆哮のように聞こえる。
新人などは、ビクリと体を震わせて硬直していた。
しかし、ミネルバは、空中で方向転換できない猪を『待ってました!』とばかりに斧で地面に叩きつける。
グシャリ
無論、その無残な残骸は、新人冒険者に見せれば吐き気で戦闘不能になる領域まで潰されていた。
「ミネルバ、それじゃ、食べられないでしょ?」
「今は、勘弁してくれ」
「今だけじゃなくて、いつもじゃない」
「はいはい、その話は、又後でな!」
血しぶきが舞う狩場で、アルジェとミネルバは、擦れ違いざまに会話を交わし、再び各々違う獲物へと襲い掛かっていく。
先輩冒険者達は、アルジェ達が取りこぼした獣を一心不乱に討伐していた。
そんな彼らの耳に、
「アルジェ!賭けに勝ったら、デートしてくれる?」
あまりにも場に不釣合いなフルーレの暢気な声が聞こえた。
「それ、まだ続いてたの?もう、倒した頭数なんて数えてないから、却下!」
アルジェは、この過酷な戦闘の中でも律儀にも返事をしてやる。
「や~い、振られてやんの~。それに、一位は、私だから!」
サシャは、大木の上に陣取り、次々と獲物を射殺しながら笑った。
「お前、小物ばっかじゃねーか!」
「ミネルバ、大きさは、関係ないって最初に言ったのアンタじゃん!」
この死地とも言える場所で、軽口を叩き合うサシャとミネルバ。
踊るように次々大物を倒していくアルジェ。
大剣の一振りで獲物を真二つにする豪腕のフルーレ。
学生だというのに鬼神とも言っていい奮闘で、格の違いを見せつける。
そして、彼らの声が勇気を与えたのか、徐々に新人冒険者達にも余裕が出てきた。
「よし!やった!」
今日初めての獲物となる獲物を打ち取り、少年が、歓喜の声を上げる。
「僕だって!」
それに呼応するように、他の少年達も周りを見回し自分でも狩れるレベルに向かっていく。
「そっちに、行ったぞ!」
「よし!挟み撃ちだ!」
徐々にコツを掴んた彼らは、互いに連携を取りながら、一匹、一匹と中型の獣を狩り始めた。
ベテラン冒険者達も、新人を守る役目から解放され、自分達も大物狙いに目的を変える。
こんな混乱が何時間続いたか分からないが、徐々に頭数は減り、気付けば周りは倒された獣の山と化していた。
そして、最後の獲物にアルジェが剣を立てた瞬間、
「やった!やった!やった!助かったんだ!」
一人の少年が、ジャンプをして歓声を上げた。
それにつられて、他の新人達も泣きながら喜びを分かち合い始めた。
その横で、
「アルジェ、やっぱり、僕が一番倒したと思うんだ」
不毛な訴えを続けるフルーレに、
「却下」
アルジェが冷静にとどめを刺していた。
ブックマークが、1700になりました。そして、総合評価も17724PV。目指せ、2000&20000。この大台を超えられたら嬉しいな。今日も、第四部の執筆もコツコツ頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。




