第二十三話 退屈な人間の目をする元王太子妃
その夜は、鳥のささみにも似た味わいのカエルをさっと茹で、脂ののった蛇を焚火で焼いて食べた。
「あら、意外とおいしい」
「アルジェ、塩かけたら、もうちょっと上手くなるぞ」
「ミネルバ、私も欲しい」
全く抵抗感なしに爆食する三人に、フルーレは、嬉しくなる。
「君たちって……、面白いよね」
「貴方だけには、言われたくない」
不満げなアルジェだが、この場面を彼女の父や兄が見たら、有無を言わせず連れ帰ったことだろう。
満腹になった四人は、二時間交代で、火の番を代わりながら仮眠を取ることにした。
女子のテントは、部品を分担して持ち運んだことで三人並んで眠れるスペースが確保できている。
問題は、フルーレだ。
男女同じ場所で眠るわけにもいかず、かといって、外に放り出すことも躊躇われる。
しかし、当の本人は、何食わぬ顔で大きな布とロープを取り出し、木の上に登って行ってしまった。
よく観察すると、器用に枝と枝の間に布をハンモックのように設置し、寝床を作っている。
「あれ、雨が降ったらどうするのかしら?」
アルジェの素朴な疑問に、
「バカは風邪ひかねーって、親父が言ってた」
とミネルバが答えた。
実地訓練二日目の正午、教師と救護班が待機する大型テントに、四人の生徒が現れた。
各自の手には、全てのチェックポイントに置かれた到達証明書10枚が握られている。
「サライヤ先生、もう帰っても、宜しいでしょうか?」
言葉遣いは丁寧だが、アルジェは、明らかに退屈している人間の目をしていた。
その背後には、あくびをするミネルバと、食べ残しのカエルを齧るサシャと、申し訳なさそうな表情のフルーレが立っており、サライヤは、こめかみを押さえる。
「はぁ…もう、終わってしまったのね」
「はい、申し訳ありません」
ちっとも申し訳なさそうに見えない生徒のお蔭で、サライヤは、毎回試験のレベルを考えるのに四苦八苦している。
実地訓練のレベルを三人娘に標準を合わせると、他の女子生徒は、全員脱落だ。
下手をすれば、男子生徒すら、森の中で遭難する。
かと言って、例年通りにすれば、アルジェ達にとっては簡単すぎて試験にならない。
今回は、そのことを考慮し、わざわざ沈黙の火山まで連れていき放置してきたのだ。
それが、三日の訓練を一日半で終わらされた日には、もう、どうすればよいか分からない。
確かに、今回は、フルーレという隠し玉までが彼女達に付いていったのだから、致し方ないのかもしれない。
だが、毎回この結果になるのであれば、フルーレも込みで、実地訓練だけでも、軍の新人隊員用カリキュラムに放り込めば良いのではないかと思い始めていた。
「帰って結構。その代わり、遊びに出歩くことは許しません」
シッシッ
犬を追い払うように手を振ると、全員が、ホッとした顔で、ぺこりと頭を下げて去っていった。
その背中を見て、サライヤは、ほほ笑んだ。
入学当初、ミネルバとサシャを侮り、ちょっかいを出す者もいた。
身分が低いくせに、下手に優秀過ぎるのが鼻についたのだろう。
しかし、全員が返り討ちにあい、逆に、現在は、触れてはならぬ祟り神のような扱いになってしまっていた。
完全にクラスから浮いてしまった二人は、周りと関わることを諦めてしまったように見えていた。
楽しそうにカフェでお茶をするクラスメートを、寂しそうに眺めるのを何度か見かけた。
本当は、女の子らしいこともしたいし、服も、着飾ってみたかったのだろう。
しかし、偶然にも二人の部屋にアルジェが加わり、今までと違った柔らかな空気が生まれていた。
貴族令嬢の命とも言える長い髪を自ら切り落としてしまう彼女は、『やりたいことをやる』とい信念を貫く少女だった。
やりたいのであれば、周りを気にせず、かわいい服を着て、小洒落たカフェで甘いケーキと砂糖たっぷりのカフェオレを頼めばよいのだ。
現に、三人は、アルジェのカバンを買いに出かけ、帰り道に食べ歩きをして帰っている。
まだまだ、他の女子生徒とは話をしていないようだが、ほんの少し希望が見えた気がした。
「でも……やっぱり、軍へ預けた方が早いわね」
サライヤは、もう、匙を投げることを決めてしまったらしい。
自分のカバンからレターセットを取り出すと、手紙を書き始めた。




