第二十二話 爬虫類もイケる元王太子妃
鬱蒼と茂る木々の間を抜け、アルジェ達は六つ目のチェックポイントに辿り着いた。
『迷子の祠』
と地図に記載された場所は、まさに、獣道を抜け、何度も迷いながらたどり着く森の奥地にあった。
一旦到達する者が現れれば、その足跡を追って来る者がゾクゾクと続くだろう。
だからこそ、第一歩を踏み入れたアルジェ達の功績は大きい。
一箇所でも多くポイントを回ることができれば、それだけグンと成績が上がるのだ。
設置されている木箱を開けると、中に「到達証明書」が入っている。
それを人数分取ると、しっかりと蓋を閉めて、その場を後にした。
三日で合計十個のポイントを回ることを想定した訓練の中で、一日目にして六か所を制覇している。
これは、驚異の速さと言っても過言ではない。
アルジェ達は、他の生徒達と、一体何処が違うのか?
無論、体力や身体能力の差もあるだろうが、最も重要なのは、現在地の把握能力である。
地図も方位磁石も、生徒は全員同じ道具を与えられ、貧富の格差等により成績が左右されないよう考慮されている。
要は、道具の使い方で、この差によって回れるチェックポイントの数が大幅に違ってくるのだ。
無論、制服以外の鞄や靴等に関しては、個人購入品の使用も許されている為、若干だが軽量化を図ることも可能だ。
三日間に及ぶ実地訓練の為、その微量な重量差が、終盤足かせになることもある。
ただ、それは、実力のない男子か、体力的に不利な女子の話。
あえてリュックに重りを入れて、筋トレになると笑うミネルバ。
ボロボロになって捨てられた鞄を拾って使っているサシャ。
父親から譲られた頑丈だけが取り柄のクソ重い軍用リュックを使うアルジェ。
この三人に、多少の重さを論じても、意味が分からなくて首をかしげることだろう。
「次のチェックポイントは?」
サシャが尋ねると、司令塔であるアルジェが、
「陽が沈みかけている。今移動するより、早めに休息を取った方がいい」
と判断を下した。
まずは、テントを組み立てられる広さと、水の確保が出来る場所を探さなければならない。
ここに至るまでの間、アルジェは、条件に当てはまるポイントを地図の上に記してきた。
「神秘の湖は、避けたほうが無難ね。他のチームと鉢合わせしたくないから」
明らかに、テントが建てやすく、水の確保が出来る湖畔は、生徒としても、有り難い場所である。
しかし、他と比べてリードを広げているアルジェ達のチームは、彼らにとっては、格好の情報源。
根掘り葉掘り聞かれることすら、面倒臭いのだ。
そして、別チームが、到達証明を盗みに来る可能性もゼロではない。
この実地訓練における注意事項に、他者から奪ってはいけないと明記はない。
決して、そのような卑劣な手段を生徒は選ばないと信じているからこその学校側の対応だが、それを抜け道と考える者も居るはずだ。
念には念を入れ、アルジェ達が野営地に選んだのは、長老の木近く、あの馬の訓練所に引き入れられてる水路の側だった。
「薪の確保は、終わってるぜ」
両脇に大量の枯れ木を抱え、ミネルバが胸を張っている。
全てを順調良く進める三人の横で、話に混ぜてもらえないフルーレが、
「僕にも仕事させて貰えないだろうか?」
と、控えめに訴えた。
最初の木登りと神秘の湖での綱引き以外、今日彼がしたことは、三人の背中を見ながら歩くだけだった。
途中、晩御飯になりそうな蛇やカエルは拾ってきたが、労力的には散歩をする老人並みの体力しか使っていない。
今から、何か狩ってこいと言われれば、『ハイ、喜んで』と返事をしただろう。
しかし、彼女達は、白けた目をフルーレに向け、
「言われてから動くのは、下の下よ」
「ったく、使えね~な」
「もう、コイツ、置いていこうよ」
と三者三様の言葉を放った。
「うん、ごめん、それだけは止めて欲しい」
それぞれに、手短な返答をしつつ、フルーレは、頭を掻いた。
今まで、出来ないことは無いと自負してきたフルーレだが、どうやら、彼女達にかかると、只のお荷物らしい。
それが、無性にうれしくて、つい口元が緩んだ。
悪態をつかれたのに笑みを浮かべるフルーレ。
そんな彼を理解できず、三人娘は、気味悪そうに見ている。
本気でこのまま置き去りにして逃げようかと目配せをしていたが、何かを思い出したサシャが、ポンと手を叩き、
「あ、フルーレは、さっきカエルと蛇、拾ってくれてたよ」
とナイスアシストをしてくれた。
「あら、それは、助かるわ」
「お前、やりゃ、デキんじゃん」
思わぬ反応の良さに、フルーレは、
「あ、やっぱり、皆、爬虫類食べられる系なんだ……」
と間抜けな返事をした。




