第二十一話 飛ぶ元王太子妃
「あれ?それで結ぶと、あとで外すの大変じゃない?」
アルジェが、四本のロープをガッシリと『本結び』をしているのを見て、サシャが突っ込んだ。
この後も、このロープは様々なところで使うことが想定される。
しかし、今、アルジェが行っている結び方は、外れないことに重点を置いたもので、簡単に解くことが出来ない。
「これにぶら下がるから、この結び方で正解よ」
出来上がった一本の長いロープの端に石を結び付けた。
「ねぇ、サシャ、貴女の体重は何キロ?」
「いくらアルジェでも、女の子に体重を聞くなんて、失礼よ」
「私は、46キロ。それより軽い?」
アルジェの問いに、サシャは、渋々首を横に振った。
「じゃ、私が木に登るから。フルーレ、後の段取りは、お願いね」
アルジェは、ロープの石が付いた方を持ち、クルクルと回して、遠心力で上に飛ばした。
目測通り、枝の上を通って、石は地面の方に落ちてくる。
クスノキの幹は太く、枝は、手の届く範囲にない。
枝のある数メートル上まで行くには、ロープで引き上げるしかなかった。
枝を支点に、両側に垂れ下がったロープを見て、やっとミネルバ達にもアルジェ達がやろうとしていることが分かった。
アルジェは、片側を体に括り付け、両手でしっかりとロープを持つと、頷いた。
もう片方のロープを三人で引っ張ると、ゆっくりと彼女の体が上へと上がっていく。
上までたどり着いた後は、島に向かって伸びる一番太い枝へ行き、自分に巻き付けていたロープを、今度は、『もやい結び』で枝に結びなおした。
引く力が強い程強く締まり、解く時は簡単に緩めることができるため、『キングオブノット』と呼ばれるやり方だ。
これで、簡易ではあるが、揺動型の移動手段が出来上がった。
垂れ下がったロープにぶら下がり、遠心力を利用して飛べば、島まで行くことは可能だ。
ただ、問題は、クスノキが非常に折れやすい木であるということだ。
男子のように高身長で体重の重いものは、ぶら下がった瞬間湖に落ちることも考えられる。
その点を考慮すると、この方法は、女子には通用するが、男子にはリスクをかなり伴うものになるだろう。
もしかしたら、学校側も、このチェックポイントはトラップとして作ったもので、攻略不可能と考えていたのかもしれない。
アルジェは、スルスルとロープを辿って下へと降りていく。
水面ぎりぎりまで来ると、岸に残る三人が、綱引きの要領でロープの端を引っ張っぱった。
弧を描くようにアルジェの体は枝を支点に引っ張り上げられる。
「アルジェ、号令を掛けてくれ」
フルーレの声に、アルジェが、
「いち、にち、さん」
とカウントを取った。
「さん」
で三人が手を離す。
ロープは勢いよく振り子のように揺れて、アルジェを島の方へと飛ばした。
ここで、落ちるかもしれないという恐怖心を抱いてしまえば、降りるタイミングを失い、再び岸へと揺り戻される。
ビュン
体が最も浮島に近づいた瞬間、アルジェは、一瞬、手に巻き付けていたロープを手放してしまった。
体が空中に浮き、ロープは岸へと一直線に戻っていこうとする。
「アルジェ!」
フルーレ達が、思わず大声で叫んだ。
これを失うと、再び岸に帰る事ができない。
アルジェは、腕を最大限に伸ばして、なんとかロープを手の中に引き戻した。
そして、着地すると、ロープを近くにある木の枝に引っ掛けた。
見守っていた3人が、安堵のため息を漏らした。
彼らにとって、授業の単位よりアルジェの安全の方が大事なのだ。
「もぉ、無理しすぎだよ」
涙目のサシャが、へなへなと地面にしゃがみ込んだ。
一方、4人分の到達証明を手に入れたアルジェは、ホクホク顔で、手を振っている。
「引っ張って!」
「了解」
帰りは、助走が足りない分、フルーレ達が、ロープの端を持ち、アルジェを岸の方まで引っ張る。
「なんか、アスレチックみたいで、楽しそうだな」
のんきにミネルバが羨ましがるが、この間にも、クスノキの枝はミシミシと悲鳴を上げ、アルジェが戻り切った時には、大きな亀裂が入っていた。
下手をすれば、冷水の中に真っ逆さま。
サシャは、自分の体重がアルジェより重かったことをこの日神に感謝した。




