第十九話 ナビゲーターになった元王太子妃
「一番効率的に回る順番は、コレね」
アルジェは、チェックポイント10カ所を線で結んで皆に見せた。
すると、サシャが、
「ねぇ、アルジェ、沈黙の火山から直接長老の木に向かったほうが、近くない?」
と指摘した。
確かに、アルジェが最初に向かうと決めた『神秘の湖』より『長老の木』の方が直線距離は近かった。
「サシャ、これを見て」
アルジェが指さしたのは、地図に波上に描かれた線。
「これは、等高線。幅が広いほど、傾斜が緩やかなの。それを考慮にいれると?」
「あ!『長老の木』の方は、線の幅が狭いから、崖?」
「そう。かなり危険を伴うことは間違いないわ」
山の中腹に降ろされてしまった彼女達は、先ず、下山から始めなくてはならない。
馬車で上がってきた一本道は、かなりの迂回路である為、そちらから下りると時間のロスが多すぎる。
かと言って、崖を下りれば、滑落の恐れがある。
アルジェが選んだルートは、比較的緩やかな山肌を、更に斜めに降りていくことで、安全かつ時短、そして水の確保までも考えた一石三鳥の案だった。
「流石、アルジェ!」
「座学だけよ。実際の経験値は、皆の方が高いでしょ?」
獣にも似た野生の勘を持つミネルバとサシャなら、多分、崖を降りる事も可能だろう。
だが、これは、訓練。
危険を冒して距離を縮めることを目的としているわけではない。
「じゃ、行こうか」
木から降りてきたフルーレは、地図を確認すると、重いリュックを軽々と背負った。
そして、何度かジャンプをした後、ゆっくりと数歩歩いて、何かを確かめると、
「それじゃ、ここから湖までの歩測は、僕に任せて貰ってもいいかな?」
と三人娘にお伺いを立てた。
「『ほそく』って、なんだよ」
ミネルバの質問に、フルーレは、再度数歩歩いてみせた。
「同じ歩幅で歩いて、距離を弾き出すのさ」
「同じ歩幅?」
「あぁ、下りも登りも、平坦な道も、同じ歩幅をキープして、何歩歩いたか数えれば、自然と距離が分かるだろ?」
フルーレの言うことは正しいが、この同じ歩幅をキープすることが至難の業なのだ。
肉体的、精神的疲労や、道の傾斜角度、様々な理由で無意識に歩幅は変わるのもなのだ。
アルジェは、初めてフルーレに感心した。
この歩行を習得するには、日々の訓練が大切だし、実地の訓練もかなり積まなければならない。
アルジェも、校内なら正確な距離を測れた。
彼女の歩幅は、一歩、70センチに合わせてある。
しかし、圧倒的に実地体験が少ない。
多少の誤差が、1キロ2キロといった大きな差になる。
今は、自分だけではないチーム戦だ。
不確定要素は出来るだけ減らしたほうがいい。
「フルーレ、お願いできるかしら?」
「アルジェのお願いなら」
アルジェがフルーレの名を、自然と口にできるようになったのは、いつからか?
あまりにも付き纏われ過ぎて覚えていないが、アルジェが呼び捨てにする男子は、フルーレだけだ。
その事を、アルジェは大したことではないと思っているようだが、本来彼女は、由緒正しい公爵令嬢。
夫となる人以外、血の繋がった弟でもない限り、男性を呼び捨てにするなどあり得ないことだった。
ミネルバやサシャの影響を少なからず受けているのかもしれないが、フルーレには心を許し始めている現れでもあった。
再度、地図を確認し、アルジェは、方位磁石が示す真北と地図が示す真北に、やや誤差があることを感じた。
知識では知っていた、これが『偏角』と言うものなのだろう。
磁場や時間などにより変化するもので、正確な差などは割り出せない。
要所要所で、地図と目標物の位置関係を確認し、修正を施していくしかないのである。
ナビゲーターは、アルジェ。
距離計測は、フルーレ。
耳や目での周辺探索は、目が良いサシャ。
そして、全員の護衛を、ミネルバが担当することになった。
まるで長年チームを組んでいたかのような統率力。
その中心にアルジェがいることは、間違いなかった。




