第十七話 四人組になる元王太子妃
「で、なんで、アンタが、ここにいんのよ?」
不満げなミネルバの目の前に、大きなリュックを背負ったフルーレが立っていた。
今日は、四人一組で森を探査する実地訓練の日だ。
通常は、二人部屋の人間が、組を作ってチームを構成する。
しかし、三人部屋のアルジェ達は、その能力値の高さから、三人での参加を余儀なくされていた。
それなのに、当日になってフルーレが、アルジェ達の班に入ることになったと教師に言われたのだ。
「なんでと言われても、僕、一人なんだ」
入学当初は、フルーレも二人部屋だった。
しかし、相方が、フルーレの実力を前に己の才能のなさに打ちのめされ、途中退学してしまったのだ。
それ以来、彼は、一部屋を独占している。
「よかったら、アルジェ、いつでも僕の部屋で同居出来るよ」
「謹んで、御断り申し上げるわ」
直接対決以来、事あるごとに口説いてくるフルーレに、アルジェは、辟易としていた。
なにせ、何処にいても現れるのだ。
ミネルバ達とカフェでケーキを食べている時も、気づけば隣に座っていた。
気配を消すのが上手過ぎて、気味が悪い。
「僕だって、今日まで三人で参加だと思っていたんだ。でも、今朝になって、チームメートが突然二人揃って腹痛だって言い出してね」
本気で病欠だと思い込んでいるフルーレは、不思議そうに現状を説明するが、彼以外の三人は、そのチームメートが休んだ理由を察した。
ただの、仮病だ。
その二人は、自分の実力不足を認識しており、今、実地訓練を受けても、ケガをして帰ってくるのがオチだと分かっていたのだろう。
しかも、突然休めば、フルーレに嫌がらせも出来て一石二鳥。
本人達は、今頃、してやったりとほくそ笑んでいるだろうが、世の中、そんなに甘くない。
社会に出て通用する技でもなければ、教師も、見抜けぬほどの節穴でもない。
内申書には、手厳しい評価が書き込まれていることだろう。
アルジェは、チラリとフルーレを見て、
「足を引っ張らなければ、それでいいわ」
とだけ伝えた。
この探査も、全て単位となり、成績に直結する。
実力だけを見れば、これほど頼もしい相手はいない。
「流石、アルジェだね」
多くを語らず、的確な判断を下すアルジェに、フルーレは、ブンブン尻尾を振る大型犬のように傍に侍る。
この様子に、驚く者は、随分と減った。
それだけ、フルーレは、毎日彼女を追いかけ回しているのだ。
遠くで何人かの男子生徒が、羨ましそうにフルーレを見ていた。
彼らもアルジェに声を掛けたいのだろうが、悲しいかな、多分名前すら憶えられていない。
そんな中、悲しいほどに自分のことを分かっていない一人の男子生徒が、
「なんだ、フルーレ。お前、いつから、犬になったんだ?」
と声をかけてきた。
それは、以前、フルーレがアルジェとの対戦を代わってあげた生徒だった。
本来なら、退学すらあり得るところを、フルーレが対戦相手に代わり、アルジェと壮絶なバトルを繰り広げられたことで有耶無耶になり、難を逃れていた少年だ。
フルーレは、彼に、いつもの得体のしれないスマイルを向けた。
心の中で、
『コイツ誰だ?』
と思っていたが、表面には出さない。
「羨ましいのかな?」
「羨ましいことなんか、あるか!」
「そうなの?僕は、最高に幸せな犬さ。アルジェも、そう思うだろ?」
「思わないわね」
淡々と答えるアルジェと、ブンブンと尻尾を振っているように見えるフルーレは、目の前の生徒そっちのけで話を続ける。
「今晩のごはんは、自分達で作るんだよね?」
「そうね」
「何がいい?猪?鹿?何でも、狩ってくるよ」
「食べれるものなら、なんでもいいわ。寝る時間の方が重要だもの」
今夜は、二泊テントを張って過ごさなければならず、食事も現地調達が基本だ。
非常食の持ち込みは許されているが、あくまで、非常事態のみ食べられると決められている。
もし、獲物を狩れなければ、その辺に生えている雑草でも食べて、体力を温存しなければならない。
狩りは出来ても、解体が初めての生徒も多い。
この状況で、ピクニックにでも行くような気楽さで待機するのは、アルジェの班だけである。
「おい、アルジェ、フルーレ、行くぞ」
気の早いミネルバが、さっさと歩きだしてしまった。
まだ、始業の鐘も鳴っていない。
「ちょっと、張り切りすぎ」
苦笑しながらも、サシャもウキウキ後をついて行っている。
アルジェは、机の上のリュックを背負うと、
「行くわよ」
とフルーレに声を掛けた。
「了解」
他のメンバーの倍はありそうなリュックを軽々と背負ったフルーレは、スキップでもしそうな勢いでアルジェの後ろをついていった。
残された生徒は、ただ、呆然と四人の背中を見送るしかなかった。




