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【第三部開始】アルジェ・ロッシーニ元王太子妃の剣  作者: ジュレヌク
ダルタニアン騎士学校編アルジェ12歳

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第十五話 呼び捨てにされる元王太子妃

アルジェは、期末テストとはいえ、真剣勝負に泥を塗られた気分だった。


負けた理由を声高に叫ぶのも無様なら、戦う前から逃げ腰なのも、万死に値する。


しかも、わけの分からぬ言い掛かりに、全身の血が、怒りで沸騰しそうだった。



「許せない……」



アルジェに睨みつけられ、男子生徒は、ブルブルと震えて床にしゃがみ込んでしまった。


風が吹くたびに、短くなった髪が、頬をなでる。  


頭が軽くなったことで、思考が研ぎ澄まされたせいか、目の前の敵を倒す方法が次々と湧いてきて、脳内では既に3、4回抹殺していた。


そんな緊迫した空気の中、



「かっこいい…」



フルーレだけが、恋する乙女のように両手を胸元で組み、頬を染めていた。


いつもの細目がカッと見開かれ、意外と大きな瞳でアルジェを見つめている。


彼の目に映るアルジェは、まさに神のごとく凛々しく、輝かんばかりの威厳を放っていた。


彼の理想は、自分より強い女だ。


何故と聞かれても、生まれた時からそうだとしか答えられない。


前々から、アルジェのことは、強そうだとは思っていたが、どこか力をセーブしている匂いがした。

 

それは、フルーレ自身にも経験があることだ。


余りにも実力差があり過ぎて、本気を出せば殺してしまうと感じているからだろう。


どこか殻を破りきれていなかったアルジェが、今まさに、全身から覇気を発し、戦いに身を投じようとしている。


その相手を、自分がしないで、誰がする?


フルーレは、スススッと足音もなくアルジェの髪に近づくと、ヒョイと拾って、いそいそとウエストポーチにしまい込んだ。


今日の日の思い出に、大切に保管しなければならない。


その行為に驚いたアルジェが、声を上げた。



「貴方、私の髪をどうするつもり?」


「要らないから捨てたんでしょ?」



質問を質問で返し、はぐらかしたフルーレに、髪の毛を返す選択肢などない。


コレは、彼にとって、永遠の宝物になるのだから。


フルーレは、姿勢を正すと、真っ直ぐにアルジェを見た。



「悪いんだけど、対戦相手、僕でもいいかな?」



彼の質問の意図を測りかねたアルジェの右眉が、クイッと上がり真意を問う。


しかし、それには答えず、フルーレは、



「君は、うつくしいね」



と、ため息をついた。


今まで同級生として時間を共にしてきたが、今日初めて、彼女を美しいと思った。


特に、不揃いな髪の毛が、彼女の猛々しい魂を表しているような気がして、触れてみたくて仕方なかった。


うっとりとした熱視線を向けられ、アルジェは、



「え?」



と嫌悪感を露わにし、深く眉間にしわを寄せる。


本能的に、身の危険を感じたのだ。



「髪を切った姿は、正に、戦女神といったところかな」


「ふざけないで」


「本当さ、僕は、君になら踏まれてもいいよ」



正直に本心を吐露しただけなのに、アルジェが一歩足を後ろに引いた。


よほど、気持ち悪かったのだろう。


しかし、柄に手を掛けたフルーレの真剣な眼差しに、彼女の気持ちも決まったようだ。


期末テストとはいえ、アルジェとフルーレは、まるで戦場での一騎打ちのように真剣だ。


刃を潰した訓練用の剣だというのに、二人は相手を切り殺さんばかりの殺気を放っており、周りにいる同級生達は、息を飲んで見つめている。


先ほど無理矢理切り落としたばかりのアルジェの髪の毛は、毛先が全く揃っていない。


しかし、本人はまったく気にしておらず、逆に涼しくなって良かったと思っているようだ。


左右に一度頭を振ると、揺れる髪の軽さに口角を上げた。

 


「その髪型、似合っているよ」


「ありがとう」


「アルジェって呼んでも良いかな?」


「出来たら、止めて欲しいのだけれど」


「うん、分かったよ、アルジェ」


「今、私、断ったのよ」


「そっか……ご期待に添えず申し訳ない」



結局、フルーレは、最初から相手の承諾など必要としていなかった。


『アルジェ』と呼ぶことにしたから、『アルジェ』と呼ぶのだ。


そこに、彼の頑固さなようなものが詰まっており、これ以上の問答は無駄なのだとアルジェは悟った。



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― 新着の感想 ―
『アルジェ』と呼ぶことにしたから、『アルジェ』と呼ぶのだ。 これ以上の問答は無駄なのだ ( ´艸`)フルーレ無敵の思考
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