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【第三部開始】アルジェ・ロッシーニ元王太子妃の剣  作者: ジュレヌク
ダルタニアン騎士学校編アルジェ12歳

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第十四話 断髪する元王太子妃


「アイツ、また振ってるぜ」


「馬鹿の一つ覚えかよ」


「守られる側が、守る側にくるとか、勘弁してくれよな」


「全く、やりにくくて仕方ない」


「怪我とかさせたら、首チョンパだったりしてな」



この騎士学校は、その性質上、貴族出身者が殆どだ。


故に、この街の破落戸のような会話をしている彼らも、残念なことに、下級ではあるが一応貴族だった。


そして、貴族であるならば、それこそ、もっとアルジェに敬意を払うべきだっだ。


なにせ、彼女は、隣国の元王太子妃であり、公爵令嬢なのだから。


しかし、ミネルバやサシャとつるむ彼女に慣れるに従い、その危機感が薄れていったのだろう。


アルジェの言葉遣いが、平民よりの、かなり砕けたものになっていたことも、彼らの増長に拍車をかけてしまった一因かもしれない。


それほど、平民出身の者は、この学校では異端者であり、下手をすると人間とすら思っていない貴族も居るのだ。










もし、少年らの今の会話を、ロッシーニ家の人々が聴けば、剣を片手に一刀両断しに駆けつけるだろう。


そして、そうなったとしても、名誉を重んじる騎士学校としては、異議を申し立てることはできない。


並の女子生徒なら、ここまで悪化する前に、悪口を言われていると担任に相談したかも知れない。


その場合、男子生徒達も、口頭での厳重注意くらいで事は済んだはすだ。


ただ、アルジェは、普通ではない。


悪口をいちいち気にするくらいなら、剣を振る方が有意義だと思っている。


そして、模擬戦では、今の所、負け無し。


1年生ということもあり、最初は女子同士の戦いだった。


だが、三人娘に関しては、3年生殴打事件以降男子に混ぜられている。


これも反省を促すための罰なのだが、嬉々として三人が男子を薙ぎ倒すものだから、被害者は増えていく一方だ。


息子が負けてしまった家々からは、彼女達は、蛇蝎のごとく嫌われている。


それなら、何故、アルジェだけに、ここまで悪口の矛先が向くのか?


それは、この男子生徒達が『傷物令嬢アルジェ』なら、手に入るのではないかと勝手に淡い期待を寄せたからだ。


彼女の胸には、ロイドを庇った時の大きな刀傷がある。


生きていくことすら辛い負い目を持つ彼女に、ちょっと優しくしてやれば、コロリと簡単に落ちるのではないか?


まるで巷ではやる陳腐な恋愛小説のような筋書きを、本気でヤレると思っているあたり、貴族社会の身分制度を軽く見すぎている。


そして、こんな利己的な考えで声を掛ける者を、アルジェが相手にするはずもない。


冷ややかな視線を向けられ、温情を賭けるつもりが、鼻にもかけてもらえない塩対応で返された。


きっと、アルジェは、彼らの名前すら覚えていないだろう。

 


折角、慰めてやろうと思ったのに


あの容姿なら、多少胸に傷があっても良かったのに




身勝手な妄想に舞い上がり、勝手に失望し、変な逆恨みから徒党を組んで悪口を言い、憂さを晴らしている。


余りにも格好悪くて、他の女子からも冷たい視線を向けられていることに、彼らは気づいていない。


そして、教師からも、要注意と各所に情報共有がされており、次に何か事が起これば停学などの処罰対象になることが決定していた。


そんな中、のちのち『剣聖誕生』の第一歩と記される『あの事件』が起こった。









神聖な訓練所に突然響いたのは、



「きたねーぞ」



あまりにも不釣り合いな怒声。


アルジェの期末テストの対戦相手が、彼女のポニーテールが目に入ったと騒ぎだしたのだ。


背後から襲おうとした自分を棚に上げ、言葉汚くアルジェを罵る。



「その長い髪も、武器かよ。元王太子妃だからって、ズルが過ぎるんじゃねーか?」



審査をしていた教師陣に、緊張が走った。


ここまで言い掛かりが酷いと、もう試験ではない。


ただの喧嘩であり、一方的に突っかかる男子生徒が100%悪い。


このまま乱闘にでもなれば、彼を退学処分にせざるを得ないが、教師達は、そうしたくはなかった。


ダルタニアン騎士学校が、創立以来、退学者を一人も出していないのは、どのような者であれ、志高く教育を

施せば、必ず良い方向へ導けると信じてきたからだ。


彼にも必ず更生の道があり、騎士としての人生を、ここで終わらせてはならない。


しかし、アルジェは、『元王太子妃』だ。


粗略に扱った彼を簡単に許すば、国家間の問題になりかねない。


落としどころを探る時間もなく、教師達の顔色が真っ青に染まった、その時、



ブチッ



アルジェが、護身用に配られたナイフで、自分の髪の毛を束ねている根元から切り落としてしまった。


貴族令嬢としては、命のようなもの。


髪を短く切りそろえるのは、教会で神に身を捧ぐ時くらいだ。


誰もが呆然とする中、



バシッ



アルジェは、まさに馬の尻尾のような髪の束を対戦相手に投げつけた。



「さぁ、もう一度立会を」



アルジェの目は、怒りに燃えていた。


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