第十二話 こんなはずではなかった元王太子妃
今年の1年は、歴代と一味違う。
そう評したのは、誰だったのか?
多分それは、褒め言葉では無かったのだろう。
それを証明するように、今まさに目の前で男子生徒を片っ端から殴り倒している3人の少女達は、正真正銘1年生である。
事の発端は、3年生が1年生に喧嘩を売ったことだ。
ダルタニアン騎士学校では、私闘は禁じられている。
しかし、それ以上に名誉が重んじられ、時としてそれは、規律を変えてでも優先される事柄であった。
故に、罰せられるべきは、最初に卑劣な手で先制攻撃を仕掛けた3年生であり、防御として対抗した三人娘には罪がない。
「先にやったのは、あんたらだからなぁ!」
ミネルバは、聞こえよがしに叫んで、止めようと走ってきた教師達にアピールする。
「また、貴女達なの……」
担任を受け持たされたサライヤは、既に目の前に倒れている3年生の山に頭を抱えた。
原因の発端は、教師達が、3年生に発破をかけようと、ある1年生達の名前を何度も引き合いに出した事だった。
「生徒としての評価は横においておくとして、腕っぷしの強さだけは、他の学年に引けを取らないぞ」
「特に3年生!このままじゃ、あの1年生達にも負けるんじゃないか?アイツらは、勝つために手段を選ばんからな!」
よく聞けば、決して1年を褒めているわけではない。
しかし、教師が口にした不用意な言葉が、その1年生への憎悪を生んでしまった。
無論、その1年生とは、奇妙な三人娘とフルーレ・ギヤマンテだ。
腹いせに、嫌がらせの一つや二つしてやりたいところだが、女に手を上げたとなれば、バレた時、男として不名誉の誹りを受けると思ったようだ。
この時、大人数で一人の人間をターゲットにした時点で不名誉な行為なのだと気付いて欲しかった。
だが、それが出来ない彼らは、元々プライドと言うものを持ち合わせていないのだろう。
こうして、3年が目をつけたのが、『不思議君』と陰で呼ばれるフルーレだ。
一人で居る事が多く、よく裏庭で昼寝をしている。
剣の腕前が凄いことは皆知っていたが、それなら、剣を持たさなければ良い。
眠っているうちに眠り薬を嗅がせ、意識のない間に身ぐるみ剥がして校門前に放置する予定だった。
別に殴る蹴るの暴行を加えるつもりでは無かった。
ただ、恥をかかせてやりたかっただけだ。
このこと1つを取っても、3年の程度が知れるが、あくまで一部の生徒であることを彼らの同級生達も大声で叫びたかっただろう。
そして計画は実行され、まんまと眠り薬を嗅がされたフルーレは、ベンチの上でスヤスヤ眠っている。
ここまで成功すれば、普通なら、計画の8割が成功していたのだ。
たまたま弁当持参でピクニック気分を味わおうと、裏庭に来た三人娘に目撃さえされていなければ。
彼女達は、最初、眠るフランシスを取り囲み、服を脱がし始めた3年に、礼儀正しく問うたのだ。
「何をなさっていらっしゃるのですか?」
と。
すると、背後からアルジェに声をかけられた事で驚いた一人が、突然走って逃げ出してしまった。
やる事が小さいだけに、気も小さかったのだ。
ここで挙動不審にさえならなかったら、アルジェ達もスルーしていたかも知れない。
しかし、明らかに後ろめたい事をしていたと分かったからには、放って置くことは出来ない。
「全く、もって、けしからん!」
アルジェが止めるよりも早く、ミネルバが、低く体勢を整え、一気に3人ほど体当たりで吹っ飛ばした。
「やだー、ひれつー」
と叫びながら、何処から入手したか分からないガラス瓶で相手の頭を殴るサシャは、卑劣ではないのか?
「駄目よ!止めなさい、二人とも!暴力では、何も解決しないわ!」
そう言いながらも、パニックになった3年に殴りかかられれば、アルジェも反撃しない選択肢はない。
「止めなさいっていってるでしょ!」
と言いながら、アルジェが一番の急所を攻撃して相手の戦意を喪失させていった。
高みの見物とばかりに集まった1年の面々も、あまりの乱闘の激しさに見守ることしか出来ない。
それどころか、この3人を敵に回すことの恐ろしさを目の当たりにし、自分達は、このような愚行は起こすまいと固く心に誓っていた。
ミネルバとサシャは、自分たちの行いが、フルーレを守り、且つ1年の名誉を守ることだと分かっていた。
そして、罰せられるのは3年だと。
それ故に、手加減なく殴り倒していた。
フルーレは、彼女達にとっての免罪符であり、好き嫌いは別として、大切な同級生なのだ。
決して、いけ好かないやつを殴れる機会を楽しんでいるわけではない。
「やめ、止めてくれ」
懇願する3年の首根っこを捕まえ、ミネルバが壁に放り投げた。
「許して」
両手を合わせ拝む3年生を、サシャがこん棒で殴る。
こうなっては、手が付けられない。
たった数年早く生まれただけで先輩風を吹かそうとした事を、彼らは後悔するしかない。
この事件を境にして、上級生から1年生へのちょっかいは一度として起こらなかった。
それはそうだろう、謹慎させられた上に全治数ヶ月の怪我だ。
家族からは家名の恥だと罵られ、同級生からは、今後一切の付き合いを断ると言われた。
意識を失って現場を目撃できなかったフルーレは、
「そんな面白いことが起きてたのに、なんで起こしてくれなかったんだ……」
と最後までゴネていた。
そして、一番多くの3年を倒してしまったアルジェは、
「こんなはずではなかったのです」
と言い訳にもならない言い訳をしていた。




