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「おっ、要救助者発見」


 中心からにゅっと突き出た大顎が、人ひとりを掴んでいた。それを大きく振りかぶると上に向かって無造作に投げた。

 ハーキスが落ちた人間を引きずり安全地帯まで連れてくると、ウォーレンが怪我の様子を見る。

 続けざまにもう一人巣穴から返却された。

 二人ともうめき声を上げているので生きているのは分かった。


「アリジゴクの巣穴から生還する経験はなかなか出来ないぞ。隊長のおかげで貴重な体験したな」


 ハーキスが嫌味を込めてそう言うと生還者二人が怯えたままカイルの状況を報告した。


「か、彼は下で何かと戦って……あのムカデじゃない……暗くてよくわからなかった……死体が、死体が沢山……」


「お前もその死体とお友達になるとこだったんだよ」


 いつもおどけているハーキスの声が冷たい。無謀なルーキーに腹を立てているようだった。


「普通はアリジゴクの救助要請をされても助けられないのは説明した通りだ。それでも俺たちは最善を尽くすけどな。今日はたまたまだ。たまたま隊長がここにいたからすぐ動けた。普段なら間に合わない。俺たちにも命はある。分かるか? お前たちみたいなルーキーの軽率な行動が俺たちの命を奪うんだよ」


「あ、あの男は…」


「こんなんで死ぬような隊長じゃねえよ。わかったら次からはダンジョン舐めんな」


 そこまで言うとハーキスは一度大きく息を吐いた。

 溜息ひとつで気分を切り替えると巣穴の中心を見る。

 きっとあと数分もすれば何食わぬ顔してそこからカイルが帰って来るはず。


「ハーキスさん……」


「俺たちは皆隊長に大恩がある。理由も告げず溶岩に飛び込めって言われても跳び込めるくらいには信頼してる。ちゃんと隊長は帰って来るさ」


 少ししてハーキスが「ほらな」と言った。


 巣穴の中心にあの大顎が現れると、続いて頭にカイルを乗せたムカデがにゅっと伸びた。

 ムカデはまた無造作に頭を振ると、放り出されたカイルが巣穴の淵に無事着地した。


 全身砂だらけの彼は、戻るなり口の中の砂を吐き出すと大きな手で頭の砂を振り払った。


「いやー、酷ぇ目にあった」


「なんだ、オッサンはムカデでも食えなかったみたいっすね」


 ハーキスが嬉しそうに言うとカイルは「投げ込んでやろうか?」と返して来る。

 フィルも胸をなでおろすとそのやり取りがなんだか面白く思えた。ハーキスのいつも隊長を食ったようなセリフはきっと心配の裏返しなのだろう。


「隊長、無事でよかったです」


「おおフィル、残して不安だったろ。悪かったな」


 ブーツをひっくり返して砂を出すカイルに「とんでもないです!」と言うと、下に何がいたのか聞いた。


「なんというか…成り損ないの成り損ないとでも言うのか? ムカデはそいつが巣穴に突如現れ怯えていたみたいだ。スライムのヤベェ版て感じだったが、普通の攻撃じゃあ消せないし、あのムカデまで浸食されちまうからな。あんなの初めて見たぜ」


 一通り砂を払ったカイルは要救助者を見る。

 全員その視線にたじろいだ。


「さて。お前さんたちはペナルティな。こっちの契約破ったろ? ほんとルーキーは約束守らねえなあ。いつか死ぬぞ」


 そう言うとカイルは後をハーキスたちに任せて一人先に帰った。

 フィルも慌てて追いかけようとしたが、ハーキスに「こっち手伝え」と言われ残ることにした。


「ああ見えてリコちゃんとこに早く戻ってやりたいんだよ」


「リコさん、テイムが解けた時不安そうでした」


「クッソ~。俺が付け入るチャンスだったのに~」


「でも僕を引き留めましたよね。ハーキスさんも素直じゃないですよね」


「言ったなガキ」


 ハーキスとフィルは騒ぎながら、ウォーレンは黙々と、そして助けられたルーキーたちは項垂れながら撤収作業をすると、熱い砂漠を後にした。

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