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本部に戻ったカイルはニーナに早くシェアハウスに行けと言われてそのままリビングにやって来た。リコの姿は見えなかったので、彼女の部屋をノックして開けると、ベッドの上で膝を抱えるようにして座るリコがいた。
「カイル……」
「ノックの返事もしないから寝てるかと思った。どうした?」
「別に……」
ニーナの言葉がリコの脳裏に蘇る。
甘えると言うのはどうすべきなのか。
今リコにとって非常に魅力的なその言葉は、実行に移すにはとても難しいものに思えた。
彼女には親も子供時代もない。
生まれるのも独り、歩むのも独り。
その人生の上に他者に甘えるという行為は存在しなかった。
知らなければ求めないはずなのに、それがどうしてこんなにも惹かれるものがあるのか。
「怪我はないのか」
「ねぇよ。一生分の砂遊びはしてきたけどな。なんもないならちょっとシャワー浴びてくるわ」
「うむ……いや待て」
部屋を出ようとしたカイルをリコは引き留めた。引き留めてしまった。
ニーナにもう少し詳しい話を聞いておけばよかったかもしれない。
カイルはいつまでも何も言わないリコに「どうした?」と待ってくれている。
リコは再会した時のカイルの言葉を借りることにした。
「その、再会は……再会はだな……」
「リコ、二時間ぶりだな。元気にしてたか?」
皆まで言わなかったのに、カイルがいつもの笑みで両手を広げてくれた。
「……実はあまり元気ではなかった」
砂の残るカイルのコートをそっと掴む。お腹の少し上におでこをこつんと付け、遠慮気味に。
頭上で少し笑った気配のあと、「そりゃ抱擁じゃねえ」と言われた。
「ふぐっ」
そのまま抱き上げられ、背中を締め付けられる。
見た目はほとんど子供の抱っこのような状態だった。
「また魔王サマは孤独を嘆いてたのか?」
「嘆いていたわけでは……いや、嘆いていた」
「そうやって少しは素直に言葉にしろ。今お前は慣れ親しんだ世界を離れてんだ。アウェイってだけで人は心細くなるもんだぞ」
カイルの肩に頭を預けると、背中を優しくあやされた。
視線の先で雨雲色の髪から砂粒がパラパラ落ちている。
まるでアリジゴクの巣穴にでも落ちて来たようだった。
「酷い砂だな」
「ムカデ野郎に頼まれて不法侵入者を追い出してたからな」
肩に乗せた頬にもざらつきを感じる。まさか本当に巣穴に落ちているとは。
自力で這い上がることは不可能なので、ムカデをテイムしたのだろうか。
「なあカイル、テイムだが……」
「今お前はずっとこっちにいるだろ? 無理にしなくてもいいんじゃないか?」
「無理じゃないっ……いや、カイルが負担でないのなら……」
お願いだ。
あの細い糸を切らないでくれ。
私の綱渡りみたいな心を繋ぎとめるのはあの糸みたいなんだ。
「分かった。目閉じて。気を楽にしろ。逆らうなよ?」
「分かっている」
カイルの耳元でリコがゆっくり呼吸を始めたのが聞こえるとフィールドを展開した。
ほんの一瞬、カイルの隷属の力が体に当たり、すぐになくなった。
相変わらず自分の身に何が起きたのかも分からないほどの細い繋がり。
リコはその糸の存在に安堵した。
よかった。
満たされる。
孤独ではないと思える気がする。




