十二月二十六日&一月五日
十二月二十六日
この日は二学期終業式。明日から冬休みが始まる。受験生にとっては最後の追い込みの時期。終業式が終わった後、優香に声をかけた。
「優香、冬休みも始まるけど受験の追い込みになるよな。久しぶりに一緒に帰ろうよ」
優香はそっぽを向いたまま話す。
「私と帰る? なんで?」
「たまにはいいじゃんかよ」
「創太には亜悠さんがいるでしょ。私とは『たまに』程度でいいってこと? 野暮ったいことしないで」
優香はこっちを向く。
「私にはもうあまり関わらないで。受験勉強の邪魔になる」
クリスマスに優香の誘いを断った。僕は中途半端に優香を傷つけたんだ。
「優香……」
「創太の事が嫌いになったわけじゃないよ。ただ、今は創太の事を考えると自分が分からなくなる。だからほっといて」
優香は少し無理しているように見えた。けど、今は言葉をかけたらいけない。優香からしたら僕は単なるわがままな男だ、きっと。
一月五日
この日は受験勉強の息抜きに亜悠とデートする日になっている。自転車を駐輪場の脇に停めて駅の中に入る。改札口の前に亜悠が立っていた。
「あ、創太くん」
亜悠は僕を発見すると笑顔で迎えてくれた。
「やあ、じゃあ切符買おうか」
「うん」
切符を買い改札口を通って駅のホームに入ると同じタイミングで目的地行きの電車が流れ込んできた。私服で僕達と同じような年齢の人達も多く見受けられる。
『ご乗車ありがとうございます――』
車掌のアナウンスが流れながら揺れるこの電車は多くの人達で一杯だ。僕と亜悠はつり革を握って過ごす。亜悠は赤の緩いロングスカートにねずみ色のフードトレーナー。そして白と黒の繊維が編み込まれたロングコートにねずみ色のニット帽を被っていた。
「すごい混んでるね。でも人の多い電車って好きだなあ」
「そうだね」
僕の意見に彼女は賛同する。小さく鼻歌を歌いながらこの電車に揺られているのが楽しそうに見える。人が混んでいても彼女と一緒にいれるならそれだけで幸せだ。
電車から降りて僕達はマハタモール最寄りの駅で降りた。
「ねえ創太くん」
「ん?」
「マハタモールで何しよっか」
「んー、ゲームセンターでゲームしてからカフェで落ち着きたいな」
「いいね、そうしよっか」
マハタモールの道のりは駅からわずかだ。駅の近くに立てられたこの大型モールは毎日人が混んでいるらしい。特に今日は人だかりが多い。僕達はモールまで歩く。
そうして僕達はマハタモール二階のゲームコーナーに辿りついた。
「あっ! あれあれ! ウサタロウのぬいぐるみ!」
亜悠はウサタロウのぬいぐるみがセットされているUFOキャッチャーの台目指して小走りでかけていく。僕は後を追った。
その台には大きなマットの上にぐたっとしたウサタロウのぬいぐるみが四体適当に置かれていた。亜悠の部屋で見たのと同じキャラクターだ。
「よし!」
彼女は気合を入れると百円玉二枚を台に投入する。僕は台の横にまわってキャッチャーのアームの行方を見守った。
「よーくみててよ!」
台から発するメロディーと同時にアームが動き出す。亜悠は右に稼働させるボタンをじっとみつめる。
「く、くそっ! 動け! 私の右手ぇ!」
ボタンを押そうとするがなかなかそのタイミングに踏み込めないでいる。なかなか押せない亜悠を見て僕はアドバイスする。
「落ち着いて右に動かして狙いを定めるんだ。一発目だからまずはリラックスすることを心がけて」
パッと台から一度離れた亜悠は一度深呼吸して目を閉じ、再び台のボタンの前に立つ亜悠。
「いけっ!」
ボタンを押すのではなく思い切りたたいてしまった亜悠のキャッチャーのアームはターゲットのどれにも焦点が合わない位置で止まってしまった。
「あっ! しまったあああ!」
「そんなに力まなくていいんだよ」
おもわず苦笑してしまった。
「まあ、リリースが下手すぎたね。ここはぬいぐるみの状態を捕りやすいように工夫してアームをぬいぐるみに当てるといいよ」
「そうだね! なるほど!」
UFOキャッチャーと格闘すること三十分。亜悠は二十回目のチャレンジをしていた。
「よし、穴の手前までもってこれたからあとは捕まえることさえできれば落ちるはず!」
亜悠の気合は落ちることを知らない。その集中力はさすが体育会系といったところだ。
「いいねもう少しだね」
僕はついあくびをしそうになる。亜悠は右のボタンを押して手前のぬいぐるみに狙いを定めた後に奥へのボタンを押そうとする。
「そーっとそーっと」「そーっとそーっと」
停止したアームはぬいぐるみを掴む。そしてアームからこぼれるようにして落ちたぬいぐるみは穴に落下した。
「やったーーーー!」
「おお!」
ウサタロウのぬいぐるみは二十回目にして見事取り出し口に落ちていた。
「よかったね」
「嬉しいなあ。へへっ」
「そろそろカフェに寄ろうよ」
「うん」
僕達はゲームコーナーから出てカフェへと移動することにした。
その途中だった。優香が一人で僕達の方へと歩いてくるのが見えた。
あ、優香だ。
優香は僕と目が合った。亜悠と二人でいる僕を見て優香は一瞬戸惑ったように見えた。優香は僕達の進路から迂回するように進路を変える。
僕は優香を見る。優香も僕を見る。優香は笑顔を浮かべたかとおもうと下を向いて歩いていった。
「ん?どうしたの?」
亜悠は僕に声をかける。
「うん。ちょっとね」
そうして僕達はカフェへと向かった。
カフェで僕達はそれぞれコーヒーとクリームベリーパフェを注文した。店員が運んでくれたそれをお供に会話をする。
「はー、体があっつい。いい運動になったよ」
「運動になるもんじゃないけどね。UFOキャッチャーって」
「そうだね」
亜悠は笑う。
「創太くんはもう進路、先生に報告した?」
「いや、まだ。でも北山高校かな僕は。亜悠は?」
「私も沢山考えた。ダンスの夢があるから隣の県の桜ヶ丘高校うけることにしたよ」
「そっか。お互い離れ離れになるね。亜悠と同じ高校に行けないのは残念だけど、それが亜悠の決めた道なら僕は応援するよ」
「私も本当だったら一緒の高校に行ければいいなと思う」
「うん。だけどそれじゃいけないよね」
「うん」
一緒の高校へ行くという考えよりも夢を信じる。それはお互い同じだから僕と亜悠は進む道が違っても応援しあう。僕達は少し大人になっているのかな……。これでいいんだ。
「僕は北山合格に向けて頑張ろうと思う。これから受験でラストスパートだからもうほとんど会えなくなるね」
「……うん、お互い受かるといいね。頑張ろうね」
亜悠と一緒に中学校にいれるのもあと二か月。ほんのわずかな時間しかない。亜悠には明るく振る舞ってみせたけど、言いようのない不安に襲われる。いつも同じ場所にとどまることは許されない。僕達は進んでいかなくちゃならない。その先には恐怖もあるけど、希望だって輝いている。恐怖に飲み込まれないように希望に手をのばす。僕はこれから先も戦い続けなきゃ。
帰りの電車の中で僕と亜悠は座席に腰かける。電車の窓越しに映る冬の夜の風景を見続けた。亜悠はウサタロウを肩にかけて少し眠そうにうつむいている。受験勉強の疲れかな。そうして電車は僕達の駅へと着いた。




