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十二月二十日&十二月二十五日

 この日の夜、ついに僕という僕は念願だった亜悠の油絵を完成させた。すぐに亜悠に連絡しようとして意気込むが結局緊張が勝る。亜悠がバスケットボールをシュートしている構図。時を止めた、なんて表現は誇張だけど僕の中であの体育館で輝いていた亜悠を懸命にここに包んだ。亜悠なら、きっといい返事してくれる。勇気がわく。携帯電話に手をかける。彼女の番号のダイアルをゆっくり押す。そして最後に応答ボタンを押した。


 ―プルルルル


『はい小柳です』


「あ、亜悠! 新井だけどさ。……やっと君の絵が完成したんだ!」


『お、おお~! 完成したんだ! おめでとうおめでとう!』


 亜悠は光を与えてくれる太陽のようなリアクションをする。絵と格闘してきた自分の救いになる君の声。君は、本当に僕に力を与えてくれる存在だよ!


「うん。今まで長くかかったけどようやくさ!」


「どれ、ひとつ私がみてやろうではないか!」


「それなんだけど、今度会える日ないかな? 都合のいい日、ある?」


「冬休み始まるね。冬休みにしようか」


 冬休み。あ、クリスマスがあるなあ。亜悠とクリスマス過ごせたらなあ……。


「なあ。クリスマスは亜悠はなにするの?」


 さりげなく聞いといて緊張がはしる。


「クリスマスはサンタが来るんじゃないかな」


「え? サンタ?」


 もう中学三年生なのにサンタって。なんか亜悠らしくない気がする。


「サンタが来る日でしょ? クリスマスって。にふふ」


 確かにそういう日だけどさ。……思い切って聞いてみようか!


「じゃあさ、クリスマスは用事がある? クリスマス会えない?」


「ごめん!」


 うわあああ。ダメか。やっぱりクリスマスは大事な用があるんだろうなあ。


「わ、わかった。じゃあ他の日に会える?」


「どうしてもクリスマスがいいの?」


 なんだか今日の亜悠は意地悪だなあ。


「まあ、そうだけどね……」


「じゃあ、今年のサンタは創太くんで決まり! プレゼント待ってるからね! よろしく!」


「え?」


「へへっ」


 亜悠は意地悪そうに笑っている。なんかムカつくけど嬉しい……いや嬉しい!


「お、おーそうか! 僕がサンタだな! お邪魔するから待ってろ!」


「じゃあ二十五日の夕方五時にあの広場でね!」


「おう!」


 電話はきれた。なんだか亜悠もクリスマスの日を待ち望んでいたのかなあ。なーんて。これ以上嬉しい出来事なんかないぞ! 少なくとも今まで生きてきた中で! クリスマスに神様に感謝する日が来るとはなあ。うおおおおおおお! 嬉しさのあまりベッドに思い切りダイブした。


「こら! 創太! 床に穴あいたらどうするの!」


 一階から母親の怒号が聞こえたがおかまいなしだった。うっひょー! 


 床はミシッと音を立てたのであった。 

 



 十二月二十五日


 広場に着いた。時間は五時きっかり。広場に人影はない。人工池で釣りをしている人などいるはずもない。池はさざ波を立てている。木枯らしが吹く。木々は寂しく枝をのばしている。寒々とした景色。

 その中にいる僕の体に宿る暖かな気持ち。そう、暖かいって実感できる。僕の心臓の鼓動の中に亜悠がいる。夏休みに会った頃からこんなに素晴らしい関係であり続けられていることを彼女に感謝している。前に進んでいること、そして亜悠が僕を見てくれていること。そして色々な出来事があった。自分は弱くちっぽけだ。でもそれと同時に麦のようにしなやかで強くもあるんじゃないかと思える。僕はあの夏休みの自分より成長したんだ。その確かな証拠がここにある。亜悠の油絵はしっかりと脇に抱えている。やがて広場の西の入り口から自転車でかっとばしている亜悠がみえた。早いスピードで立漕ぎをしている。あっという間にここに来た。


「おっす! じゃあ行こうか! サンタさん!」


「おう。じゃあ行こう!」


 亜悠は僕より先に進んでいる。亜悠の家に向かっているところだ。サンタがお出迎えされるなんて、僕らしいや。文化系サンタ。彼女の後ろ姿からみえる赤いマフラーとセミロングがとても鮮やかだ。その姿だけで彼女の全てを抱きしめたいと思いながら後を走った。


 亜悠の家は小さな家だった。僕の家よりも小さい。だけど、庭は僕の家の敷地よりもかなり広い。庭には結構使い古されたバスケットゴールがある。


「ここが亜悠の家か」


「うん。どうぞ入って」


 玄関を閉めて中に入ると廊下から二階に続く階段を亜悠は上っていく。


「お母さん、創太くん来たよー」


 階段の途中で一階にいると思われる人に彼女は声をかけた。


「はーい、いらっしゃい」


 母親と思われる声が聞こえる。


「あ、お邪魔します!」


「こっちだよ」 


 そのまま二階に上がった。


「どうぞ」


 彼女の部屋はウサギのキャラクターと思われるグッズやぬいぐるみが沢山あった。赤いカーテンにピンクのベッド。学習机は普通だけど女の子らしいかわいくておしゃれな部屋だ。


「いい部屋だね」


 自然と感想がでた。


「このウサギはウサタロウっていうんだよ。好きで集めてるんだあ」


「そういえば、広場で貸してくれた傘もウサタロウだったね」


「あの傘お気に入りだから。創太くんに貸したのはちょっと勇気がいったんだ」


「うん。そう思ってちゃんと返さなきゃなって」


「へへっ。だから今こうして会えてるんだよね」


「そうだね」


 あの時傘を貸してくれた彼女の優しさ、勇気。それは絶対に無駄にしちゃいけないと思っていたのかもしれない。あの不思議な空も絵も彼女との不思議な予感も。あの頃から僕はなにかと君に与えられてばかりだけど今回は違う。


「亜悠。この絵、プレゼントだよ。ぜひ受け取ってよ」


 そうして僕は彼女に絵を差し出した。


「まった! まだ見ない! 私が描かれてるんでしょ? 緊張してそんなにすぐにみれないよ」


 彼女は片手で絵を遮り、顔を背ける。


「うん。じゃあここに立てておくから。準備ができたら見てよ」


 そう言いつつ凄く自分も緊張してるけど……。


 彼女はやがて背けていた顔をゆっくりこちらに向けると彼女を描いた油絵に視線をやる。そうして絵に近づく。


「ど、どうかな」


「私がシュートしているところだね。なんだか私の絵なのに創太くんが見える。頑張って描いた創太くんの姿が」


「なんとか完成させたんだ」


「君の絵はいつも私の心にすっと入ってくる。きっと創太くんにしかできないよ。大事な大事なプレゼント、どうもありがとう」


「こちらこそ、ありがとう!」


 亜悠と僕はその油絵を前にしばし一緒に座って過ごした。


 


 やっぱり、絵を描くことをあきらめなくてよかったな。きっと絵を描くという道を進んでいるから景色は広がったんだ。鳥谷や光村にもひどい目にあわされたけどそれだけじゃない。感謝のようなこの気持ち。決して一人じゃ無理だった。

 しばらく亜悠の部屋にいる。今なら聞いてもいいんじゃないかな。今まで頭の中で何度も思っていたことを言葉に出すとしたら今しか言えないような気がして。少しためらいながら言った。


「……ねえ、亜悠って好きな人いるの?」


「……創太くんは?」


「僕は亜悠が好きだよ」


 好きという言葉が自然と口から出て自分でもびっくりしてしまった。


「私も創太くんが好きだよ」


 亜悠のその一言が信じられなかった。亜悠の瞳を見る。それが嘘じゃないことを彼女の瞳が物語っている。そう感じた。亜悠、君には言葉に伝えきれない想いが沢山あるよ。


「……うんしょ。暑い」


 そう言って彼女はコートを脱ぐ。白いセーターが露わになる。その姿にドキッとする。


 突然僕の携帯電話が鳴った。


「ん? 誰だろう」


 着信は優香からだった。ごめん優香。僕は着信をきった。


 その後も優香からの着信が鳴った。


「電話鳴ってるよ? 私待ってるからいいよ」


「でも……優香からなんだ」


「私は大丈夫だよっ。優香さんがクリスマスに電話だからきっと大事な用だよ!」


「うん、そうだな……」


 亜悠は優しい。着信の応答ボタンを押した。


『もしもし、創太ぁ? なんであんた電話でないのよ。バーカ』


「ごめん。ちょっと用事があって。んでなに?」


『……いや、ちょっとその。伝えたい事があってさ』


「うん」


『……今日はクリスマスでしょー。だから電話してやったの! どうせ一人でいるんでしょ。今から創太の家いってやるから感謝しろ』


「え、優香!? ごめん今外にいるから……」


『はー!? 私の誘いに応じられないなんてあんたいつから偉そうになったのよ。せーっかくケーキ持って行ってやろうと思ったのに! 私が全部食べるからいーよーだ! ふん!』


「ほんとごめんな」


『……いいよ。そんなに謝らなくても。じゃあ』


 携帯電話をポケットに入れた。優香が僕の事を思ってケーキ持ってきてくれるなんて。少し複雑な心境だ。


 窓を見ると星が瞬いていた。


「じゃあ行くよ。今日はありがとう。絵はここに置いていくから」


「あ、うん、こちらこそありがとう。途中まで送るよっ」


 亜悠の家の玄関を出る。外は真っ暗だった。広場の手前まで亜悠は自転車で送ってくれた。僕は一旦停まって挨拶を交わしそのまま家路を走って家に着いた。


 




本当に難しい場面でした。

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