十一月二十六日
この日、一時限目は学校集会が開かれた。全校生徒が体育館に集まり表彰が行われた。
『次は美術の表彰です。ここのは市油絵コンテスト銀賞受賞、新井創太』
うわ! 僕が銀賞!? や、やったあああ!
生徒会役員の僕の名前を呼ぶアナウンスが館内に響き渡った。き、気持ちいい! 表彰されるのは初めてだし、念願の美術で認められたんだ! 胸の中は歓喜で満ち満ちた。文化祭の時感じた、世界を変える力があるっていうこと。そんな力が僕にだってあるんだ!
「はい!」
返事をして壇上に上がった。
『おなじくここのは市油絵コンテスト銅賞受賞、北林優香』
「はい」
え? 優香が銅賞? そんな!
僕は演台の前にいる校長先生の前に立つ。優香も遅れてやってくる。優香は小声でニコッと僕に話しかけた。
「創太、初の表彰おめでとう」
僕も小声で返事を返した。
「ありがとう。優香はてっきり金賞だとおもってたのに。どうしたんだよ」
「どうしちゃったんだろねー。もしかして創太のせい?」
「は? どういうことだって」
校長先生がコホンと空咳をひとつする。
僕達はギクッとして視線を前に戻して黙って表彰を受けた。
放課後、美術室に貯めこんでいた自分の作品を早く持っていってほしいと美術の顧問に注意を受けたので美術室に僕は寄った。すると、そこには美術部員が数名いる中に優香もいた。優香は僕の絵を撫でている。
「優香、なに撫でてるんだよ。それ持って帰るから」
「せっかく埃払ってあげてるのに。とっとと持ってけ」
僕はその絵を抱える。
「あ、優香のその文化祭に展示した絵まだ置いてあるんだ」
「うん、後輩が置いていってほしいって言ったから」
「そうなんだ。すごくいい油絵だもんな」
その優香の油絵の中にある花はまるで枯れることを知らない力を持っているかのようだ。
「ねえ創太。いい絵ってなんのためにあるんだろ」
「なんのために?」
「私の絵には文化祭の時、色んな人が見てくれたじゃない? ……でも、創太の絵は亜悠さんが一人だけ」
「はは。そうかもしれないな」
「でも、亜悠さんは大切そうに見ていたじゃん」
あの時の亜悠はなんだか穏やかな表情で僕の絵を見てくれていた。あの表情は時々ふっと思いだす。
「創太の絵は亜悠さんに愛されてる」
「え」
優香は僕の顔を見ると不満そうな顔をする。
「そうだよ。公園で創太の絵を守ってあげた理由がわかる気がする。あのさ、私が去年の夏に泊まったペンションには障がい者による絵って名札のある小さな絵が大きなリビングに一つだけ飾られていたんだけど」
「うん」
「なぜその絵をリビングに飾ったんですかー? ってペンションの女主人さんに聞いたの。そうしたら、その子独特の意識で描かれた絵だから印象に残ってね、それで飾ったの。って言ってたんだ」
「なるほど、そういう理由だったんだ」
「その時から絵に対する解釈がちょっと変わってね。万人に認められる絵よりも誰かが一生大切にしてくれる絵の方が意味があるのかなって」
部活仲間からも先生にも誰からにも認められている優香の絵は僕にとってもとてもいい絵だと思う。そんな優香の絵に対する考え方は意外だった。そうだったのか……。
「でも、みんなに愛されている絵の方がいいとおもうよ。一人の人に愛されるよりも。だって芸術って認められてナンボだろ」
「そうかな。私の絵はコンテストで飾られてみんなが見てくれるけど、その後に私の元に帰ってくる。私の絵なんてそれぐらい」
「優香。そんなことないって……」
「認められるのと愛されるのって違うじゃん? 私だってもちろん誰かが生涯大切に自分の家に飾ってくれるような愛される絵を描きたい! きっと亜悠さんは創太にとってまさにそんな絵の解釈をしてる」
優香は僕より才能がある。そんな彼女が……。
「僕の油絵は優香が教えてくれたから描けるようになったんだ。優香がいなかったら僕は油絵なんて無理だったよ」
「そんなことないって。創太はまだ自分のこと知らないね」
「……」
「絵は額縁があって初めて飾られるものだけど、それまで絵は裸なの。私の絵はコンテストの額縁ばかり――」
そっか。だから優香は自分なりに絵を模索して違う描き方をしたのかもしれない。だから今回は銅賞だったのか。
「創太の絵なら亜悠さんなら大切に自分の額縁に入れて飾ってくれると思う。そんな風に思うと嫉妬しちゃうんだ」
優香は僕に一歩近づく。
「創太。私は創太にとってどんな存在?」
「え」
「亜悠さんのダンスどうだった?」
優香はいつもより強い口調で話しかけてくる。
「私の絵と亜悠さんのダンス。どっちが強く印象に残った?」
「あ……」
言葉がうまくでない。彼女の真剣な瞳をみた。美術とダンス。ジャンルが違うから比較はできないけど。優香が訴えてくるものは真剣だった。僕はなんて言ったらいいだろう。
「優香の絵、かな」
「……創太。あんたバカ優しすぎ。バカすぎるほどバカだ」
そう、本当は違う。文化祭の時、亜悠のダンスは忘れかけていた心のスイッチに触れた。優香の絵だって素晴らしいものだ。感動するよ。だけどきっと……。
「亜悠さんの絵、きっと見せたら彼女喜ぶと思うよ。じゃあね。さよなら」
そう言って優香は美術室から出て行った。




