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十月二十日 その2

「あ! 亜悠。その格好……!」


 亜悠はラメの入った黒い短いへそ出しTシャツに黒いアラビアンパンツに腰には煌びやかなオレンジのスカーフを巻いている。その佇まいに引き締まった体のラインが一層くっきりと映える。僕はそのあまりの魅力に一瞬目を逸らしそうになった。可愛すぎる……。


「か、かわいいね」


「スカーフの巻き方わからないから友達に手伝ってもらったんだ。に、似合ってるかなあ」


「と、とても似合ってるよ!」


 頭にはいつもの赤いタオルが巻かれている。そのおでこが見える時の亜悠はボーイッシュだったけど、髪型が丁寧にセットされている。その雰囲気で今日の亜悠はかわいすぎて声すらかけづらい。でも、僕は幸せだ。


「ちょっと、創太! 私の時より緊張してるでしょー!」


「優香! そんなことないって!」


「ったく、私と亜悠さんとまわれるんだから感謝しなさいよー!」

 

 ほんと、その通りだ。今日の二人は文化祭ならではの衣装で僕なんかにはもったいないご褒美だ。単純に比較はできないよ。二人は本当にかわいい。


兎にも角にも僕達は三人で校内をまわることになった。


「と、特別校舎、いこうか?」


 男の僕が一応リードする形で特別校舎に向かった。僕ら三人が歩く姿は他の生徒達やお客さん達から注目されっぱなしだった。


 やがて科学部の出し物であるスライム作りのコーナーに立ち寄った。


「……こうして水の入った紙コップに絵具と洗濯糊とホウ砂を少しずつ混ぜていけば出来上がります」


 科学部の生徒が丁寧に教えてくれるのですぐにスライムを作ることができた。青いスライムの出来上がり。


「おもしろーい」


 亜悠は黄色いスライムを作る。けれど洗濯糊が少なかったためかあまり手になじまず液体に近いスライムになっている。


「創太」


「ん?」


「このっ! くらえっ!」


「うわっ!」


 優香は赤いスライムを振り向きざまに顔面に投げつけてきた。


「優香! おめーなあ」


「あははは! 亜悠さんもぶつけちゃえ!」


「あははっ。創太くん。えいっ!」


 顔面についた赤いスライムをやっととると今度は亜悠がドロドロの黄色いスライムを顔面に投げつけてくる。あの、こんな展開になるなら科学部に寄るんじゃなかった。


「あのなあ、二人して狙うのやめろよな!」


「あははは」「ふふふ」


 まあ、いいんだ。二人が楽しくいられればいくら犠牲になったって。三人でいる雰囲気が和んで心の中でほっと胸をなでおろす。


「じゃあ美術部のほう行ってみようか」


 僕達は特別校舎三階にある美術室に向かった。


 美術室に入るとギャラリーがいる中、一際人だかりができている場所に向かった。それは優香の油絵だった。花瓶に大きな花がさされている一枚の油絵。


「この絵すごくない?」


「へー、油絵って適当に塗りだくってるように見えるけど、すごい奥深いんだろうねえ」


 ギャラリーが優香の絵を見てコメントしているようにその油絵は精巧に創られている。


「これ優香さんの絵? すごいね……」


 亜悠も感銘を受けているようだ。やっぱり、優香の絵は見る者に芸術的な感性を刺激させる。そんなパワーを持っている。


「亜悠さん、創太の絵見てみなよ」


「うん」


 優香はそう言って、僕が夏休みに美術部に再度籍を入れてから今まで描きあげた幾つかの油絵の場所に亜悠を誘導する。その下手な油絵を亜悠は見ている。僕が描いた油絵はテーブルに置かれたリンゴやら写真を見ながら描いた建物だったり。亜悠はじっと僕の絵達を見る。


「油絵を始めたのは夏休みになってからなんだけどね」


「創太、夏休みの間にすごく上手くなったんだよ」


 亜悠は僕に振り向きこう言った。


「うん! 優香さんの絵と比べると創太くんの絵は粗々しいかもしれないけど、ちゃんとメッセージもってるよ!」


「そ、そう?」


「だよね。創太は一生懸命取り組めば私なんかよりもずっとイケるはずだもん」


「え? 優香そんなこと言ってたっけ?」


「別に言わなかったけど。前々からそう感じていたよ」


「そうかあ? もっと早く言ってくれりゃあ良かったのに」


「私が言わなくても気付いてくれる人がいるっしょ?」


「あ……」


 優香にそう言われてから亜悠を見た。亜悠はなにか意味があるように僕の絵達を見ている。僕にはとても成功といえるような出来じゃない絵達を彼女は真剣に。一体どんなメッセージがあるというんだろう? 僕が一生懸命描いたその絵達に。ただ言えるのは、この絵達を完成させることができたのも、今も描き続けることができているのも、亜悠と優香がいなかったらできなかったんじゃないかって、そんな気がする。


「二人とも、あ、ありがとう」


「ん?」「え?」


 二人は意味が分からないといった様子で僕の顔を見ている。二人がいなかったら僕はきっと好きな絵しか描けない絵描き少年のままだったから。とても感謝している。僕は君達のおかげではっきり前に進んでいるっていえるんだ。


「創太くん、悩んで苦しんでそれでも僕はここにいるんだって伝わってきた。かっこいいよ。私はこの後ダンスだけど、がんばるね」


「あ、そういえばダンスがあるんだよね」


「そう、そろそろ始まるからいくね」


 亜悠は走って腰に巻いたスカーフをなびかせて美術室を出て行った。亜悠の出番が始まるなら僕も体育館に行きたい。


「じゃあ、僕も体育館に行こうかな」


「じゃあ私もついていこっと」


「え」


「え? ってなによ? ん?」


「じ、じゃあ、優香一緒に行こうよ」


「はあ、自分の感情ごまかすのほんと下手ね創太は。そんなんじゃ嫌われるよ」


「あ、優香ごめん。別にそういう訳じゃ……」


「じゃあ、どっちなのー?」


「うーん……」


「そういうところがナヨナヨしてるから創太はいつまでたっても創太なんだよ。その癖そろそろ治さない?」


 ほんとこういう所が男らしくないよな……。


「……ほら、始まっちゃうよ?」


「……」


「……あーかゆい! かゆいかゆいかゆい! 創太、私がトイレ行ってる間にまだナヨナヨしてるようなら絶交だかんね!」


「優香、なんだって?」


「はいもうダッシュですぐトイレ行くから!」


 優香は駆け足で女子トイレに向かっていった。


 夏休みの時、優香の言った一言、「創太も二番目に好きかなー、なんてね」の言葉が頭をよぎった。もし、あの優香の真意が僕の事だとしたら……。だけど彼女は、「亜悠の元へ行け」って言った。だったら行かなくちゃ、けど……。


 優香はそれから数分経っても女子トイレから出てこなかった。


 優香、僕行くよ。行けよ! 行かなくちゃ!


 僕は体育館へと駆け出した。






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