九月十六日 その3
「亜悠センパーイ!」
一年生指定の色の鉢巻を頭に巻いた女子生徒二人が亜悠の元に駆け寄ってくる。
「亜悠先輩! さっきの百メートル走かっこよかったです!」
「ありがとう!」
やっぱり亜悠は同性にもモテるんだ……。
「私、バスケ部の先輩の試合観ててすごい憧れていたんです。私も先輩のようにかっこいい選手になれるように頑張ります」
「そうなんだ。がんばって!」
「はい!」
後輩二人はそう言うとグラウンドに去っていった。
「バスケ部の後輩に尊敬されてるんだね」
僕はそう言ったが、彼女は少し困った顔でこんなことを言うのだった。
「う、うん。でもなんでかな。創太くんにまでそう言われるとなんだか落ち着かないなあ」
「なんで?」
「ぎこちなくて。嬉しいことなんだけど、ただ少し窮屈だなって思っちゃうの」
人に尊敬されることがあまり得意じゃないのかもしれない。自分らしくあれることが彼女にとって一番大切なんだろうな。
彼女は少し間を置いて話す。
「私も小学生の頃、ステージが終わった後の高校生の女性ダンサーにあんな感じで、ダンスしたい、なんて喋ったっけなあ。あの頃は何もできない子供だったのにね。あと一年で私も高校生。同じ立場になるんだなあ」
「亜悠もそんな女性ダンサーと同じ憧れられる側になってるんだね」
「そうだね。私もいつの間にかそんな風になってたんだ」
さっきの後輩たちも、それぞれ自分の憧れを抱いてまた憧れられる存在になるのかもしれない。
「好きなことがあってはじめてみんなとつながって、そこから成長していける。それって素敵なことだよね。私、やっぱりダンスやりたいな」
「うん」
僕と亜悠の姿を冷ややかな目で見ている女子生徒達がいるのに僕は気づいた。僕のせいであきらかな差別の対象になっている。僕は我慢できるけど亜悠が気を悪くしたらと思うと申し訳なくなってくる。
「……亜悠。学校では僕と関わらないほうがいいと思う」
「え? なんで?」
「多分、僕と亜悠は不釣り合いでみんなから変わった目で見られると思うんだ。学校グループで底辺の僕とトップである君が一緒にいると君自身にとっても良くないと思うから……」
「そんな。気にしないでよ。私は学校でも創太くんと話がしたい」
「でも、亜悠。学校てのはそんな思うようにはいかないんだよ」
「思うようにいかないって誰が決めたの?」
亜悠は少し怒った調子で話す。
「学校でグループが違うから話しちゃいけないとか、関わっちゃいけないとか、そんな自分たちの都合いい世界にしようとしている人達に負けちゃだめだよ。君はその前に自由な一人の人間じゃない」
なぜ学校という場所で僕は自由というものを自分で押さえこんでしまうんだろう。誰かに傷つけられるのが怖くなってその誰かのお気に入りになるように演じてきた自分に気づいた。
「自分の感情を隠したりするなんて自分がかわいそうだよ。心の声は君の本当の声でもあるのよ。勇気をだしてよ」
そうだ。恐れずに自分を持ち続けることの勇気。それが僕にはなかった。亜悠はそんな僕との関わりを学校でも持ち続けたいと言ってくれた。そこに恐怖に負けない勇気があるといわずして何と言おう。
「もしそんな自分のまま生きるんだったらもともと生きる価値なんてないよ」
勇気をだして生きることの大切さ。それが僕に欠けていたモノだった。このままじゃダメだ!
「だから、せめて私には本当の自分らしさをだしていてよ。広場で会った創太くんが私は好きだから。私は応援するよ!」
「うんわかった! ……ありがとう亜悠」
「あっ! いけない! もうリレーの選手集まってる! いかなくちゃ。じゃあね!」
「あ! うん! がんばって!」
僕がそう言うと亜悠は親指を立てるサインをみせて慌てふためいてリレーの集団にまじっていった。
この体育祭で優勝したのは亜悠の組だった。僕は家に帰ると油絵の制作に夜遅くまでとりかかった。




